くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「夕凪の街桜の国」

kurawan2007-07-29

田中麗奈の舞台挨拶がある、という情報で、見る予定ではなかった「夕凪の街桜の国」をみに梅田のシネリーブルにでかけた。

挨拶のある上映回は12:05だったが、9時に着いたときにはすでに長蛇の列。結局68番だった。
それでも、小さな劇場なので、それほど遠くにはならず、佐々部清監督と田中麗奈三はしっかりとみることができた。

普段、どちらかというと髪の短い彼女だが、今日はカツラを着けているのか、胸あたりまでのロングヘアーで、いつもと雰囲気がかなり違う。あれなら、町で見かけても気がつかないだろうから、あえて、あのスタイルなのかもしれない。

先日みた池脇千鶴とは違ってかなり雄弁で、この映画の見所や原作の内容などを丁寧にはなしてくれました。
48歳になった私も、やはり、そろそろ、死んでいく前に公開の内容にできるだけ、あいたい人には会い、やりたいことはしようと思います。

そこで、この「夕凪の町桜の国」について、
いったい私は今まで何をしていたのだろう。戦争について何を理解していたのだろうと、何ともいわれないほどの痛切な反省と、この映画に胸を打たれてしまいました。

原爆は落ちたのではなく落とされたのだ、原爆を落とした人は死んでいく日本人をみて、してやったりと思ったのだ。少なくとも、その当時はそれが正しい理解だったのである。
そして、被爆した人間が、いったい、何世代までその遺伝子的な影響がでるのか全くわからない中では、今なお、被爆者に対する差別、広島にすんでいた人々に対する差別が、残っているという現実に、今更ながら、再認識してしまいました。

それを思うと、映画が終わっても涙が止まらず、パンフレットの解説を電車で読んでも思わず胸が熱くなって、
「いったい、自分は何をしているのだろう。平和に埋もれて、のほほんと暮らし、かつての悲劇をかえりみることもせず、すでに、戦争は終わったのだと、ばかげた生活を当然のように生きている。平気で人殺しをする若者たち、それをみて見ぬ振りをする大人たち。間違ったことを間違っていると注意さえもできなくなった親たち、自分はそんな中で何をしているのか」

映画にはたしかに、すばらしい映像に感動したり、見事に構成されたストーリーにのめり込んだりする作品がたくさんあります。しかし、この映画は違います。佐々部監督の演出手腕は本当に平凡で、特に取り上げるものはありませんが、平凡に作られてこの物語の中に、知っておかなければいけない、思い出さなければいけない失った大切なものが詰まっているのです。

分析すれば、麻生久美子の名演、吉沢悠の存在感、田中麗奈の味の利いた演技、堺正章の深みのあることば、それぞれのなせる技だったかもしれませんが、今、日本人がみておかなければいけない作品として、ダントツにあげるべきものではないでしょうか。

本当に、田中麗奈のファンでよかった。ファンとして舞台挨拶目当てでなければ、おそらく見に行かなかった映画だったと思います。いい一日でした