くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド

ダニエル・ディ・ルイスがアカデミー賞主演男優賞を受賞したポール・トーマス・アンダーソン監督の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」を見る。

本当に見ごたえのある秀作であった。

カリフォルニアで石油の採掘で一攫千金をねらう一人の男の物語。
こう聞くと私の大好きな名作「ジャイアンツ」を思い出しています。一人の女性に憧れ、その女性の気を引くためにがむしゃらに石油採掘で大金持ちになろうとする青年の物語。

しかし、この「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」の主人公はそんな純粋な心からではなくひたすら富を求めようとする。
そのためには孤児となった子供をだしに土地を買い占めようと奔走する。石油が出そうだと思われれば、手段を問わずにその土地を手に入れようとする。

そんながむしゃらな欲の塊のような主人公に対峙するように描かれるのがカリスマ宗教家として教会の牧師になる若者。しかし、彼もまた、目指すところは同じで富と権力である。まるで新興宗教よろしく派手なパフォーマンスで信者を集め,教会を立て、更なる富のために都会へ出て行く姿は、手段こそ違え、石油王を目指す主人公と同じである。

そんな、人間通しの欲のぶつかり合いが、壮大な自然を背景に、ハイテンポな音楽を交えて絶妙の映画的なリズムで展開していく。まさにポール・トーマス・アンダーソン監督の腕の見せ所である。

奇抜な構図や実験的な映像を見せるわけでもないのに、耳の聞こえなくなった少年の心を描くときはサイレント映画よろしく無音で演出し、一方でとんとんという打楽器のような音楽を挟み込むことで画面にリズミカルな展開を作り出す。

ひたむきな姿を描くかと思えば、村人との確執を要領よく自分の意図するところに持って意向と柔軟な姿を見せる。まさに欲の塊で、何の純粋さは見られないし、ラストシーンの哀れさもとくに強調するものでもない。ひとつの時代が造った一人の男の物語。石油に見せられ、富に見せられた男の物語として、見事な作品として完成していました。いい映画でした