くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「スラムドッグ$ミリオネア」

スラムドッグ$ミリオネア

映画が誕生してすでに100年以上になる。その中でさまざまな作り方が試されてきました。
物語展開の方法、カメラアングルの方法、カメラワーク、演出、画面作りなど監督やスタッフのさまざまな個性が発揮されてきました。
そんな、まざまな個性がひとつに終結し、見事に絡み合って組み立てられた傑作がこの「スラムドッグ$ミリオネア」でした。

宣伝文句はこうです「スラム街の少年がクイズミリオネアで次々と問題を回答、はたして、天才か、問題を知っていたのか、いかにしてかれは問題の答えを知るに至ったか」
このキャッチフレーズだけで、この映画のテーマがすべてわかりますが、もちろん本編をご覧にならないとそれはわかりません。

インドのスラム街でその日の暮らしどころか、今、この瞬間の生活さえも必死な幼い二人の兄弟。そこには数ある映画で描かれたような貧乏ながらも暖かい家族や人々の手はありません。ゴミの山をあさり、平気で大人をだまし、生きるための知恵だけで日々を暮らしている少年たちの姿があります。まるで、戦後の日本の闇市の場面でよく描かれるようなシーンが続きますが、インドの音楽を模したような軽快な中にどこか東洋的なリズムが、展開の中に不思議なテンポを生み出して生きます。

さりげなく、登場人物を紹介し、この映画の本筋である物語に引きずり込んでいく展開のうまさは脚本のできばえのよさでしょうか。そこに、斜めのカメラアングルやハイスピードの長廻し、細かいカットつなぎで見せる演出が施され、ラストシーン今でつながるさまざまな伏線が張られていきます。どこかで見たような、そんな感覚を持ち始めるのは、この冒頭の辺りからですね。

どれもこれもがバイタリティあふれる画面作り、主人公の少年たちのあまりにも無邪気で、無心であるために、生活のために犯すさまざまな罪もほほえましくなってきます。

列車からひきずり落とされ、地面を転がるところから一気に時間が飛ぶという演出はベルナルド・ベルトリッチがよく用いた手法ですが、当たり前のように利用し、そのあとは、気がつかないほどに自然に時間を飛ばして、成人の姿までたどり着きます。

こうした、時間軸どおりの物語の背後に、現在進行している「クイズミリオネア」の場面を織り込み、さらには警察署での取り調べシーンを絡ませた構成は、今となっては陳腐ながら、この作品では非常に効果的に映画のテーマを語らせるのに役立っているのです。
トップシーンの警察での拷問、そしてフラッシュバックして、少年時代、一方でテレビ録画の画面を見せながらの直近までの経緯。時間を操り、空間を操り、今までの名作映画の名場面たるを巧妙に織り込んでいく、知り尽くされた演出は映画ファンにはたまらないのと同時に、ややミニシアター系の作品に仕上がった部分もあって、一筋縄ではいかない面白さを味わえます。

ラストシーンはまさにどこかで見たようなアメリカ映画、でもエンディングタイトルのバックはどこかで見たようなヨーロッパ映画、ふとわれに返り思い返せば、あのカメラアングルは名作「・・・」の場面にも使われたような、そんな錯覚があれよあれよと蘇えり、この作品のテーマが語られるにつれ、背筋が寒くなるほどの感動が呼び起こされてきます。

完成された映画という意味ではなく、映画という総合芸術はここまで進歩してきたのだというのを見せ付けられる見事な作品でした