くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「プール」

プール

荻生直子監督の「かもめ食堂」「めがね」に続いての癒し系シリーズの作品です。今回の監督は「不機嫌なジーン」の脚本などで活躍中の大森美香監督脚本作品で、いままでのムードとどことなく違うところがまた見所でした。

人間の価値観への考え方、母と娘の心のすれ違い、などなど、タイを舞台に5人の人間の姿を通じて描かれるまったりとしたドラマは、時間の存在さえも忘れさせられ、どこまでが建物なのか空間の存在さえも取り払われた開放感に浸ることができました。

タイ空港に母を訪ねて娘が降り立つところから映画は始まります。

自分のおもうところから 娘と祖母をおいてタイに移り住んだ母京子(小林聡美)をたずねてきた娘さよ(伽奈)はそこで自由奔放に待ったりと暮らす人々を目の前にして次第に心を開いていきます。

最初はちょっとつっけんどんな物言いをするさよですが、その演出もとげとげしくなくさりげなく描写していく大森美香監督の演出は好感ですね。さらに、時折ほんのわずかにフラッシュバックのように時間をさかのぼったシーンをはさんだり、どこかファンタジックにさえ見える小道具として、プールの存在や、料理、飼われている犬や猫、豚などが非常に効果的に癒しの効果をもたらしてくるのがまたいいですね。

やはり、人間は太古の昔から自然と水の周りに集まるのが本能なのでしょうか?そんなことを思い起こさせられるこの映画の舞台のゲストハウスの中心のプールが、特に意識的な描写もないにもかかわらず存在感があって、この作品を絞めているようにも思えます。

荻生直子監督が描いた癒しの世界の映像とは完成度の高さは違うものの、大森監督の描く個性的なリズムの面白さは十分に出ているし、確かに小林聡美もたいまさこを登場させての二匹目のドジョウのように思えなくもないですが、これはこれで十分楽しい映画だったと思います。

日程を終えて空港に向かうラストシーンでさっとエンディングにしてしまうあたり、不必要な文明社会の場面を挿入しなかったのはこの映画の締めくくりとしては成功だったのではないでしょうか。