くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パパの木」「さよなら渓谷」

パパの木

「パパの木」
非常にシンプルなストーリーなのはいいのですが、焦点がややぼやけた形になった展開で、普通の映画だった気がします。

映画はピーターとその妻のドーンがハンモックでいちゃついているシーンに始まる。場所はオーストラリア。
ある日、父ピーターは娘のシモーンを車に乗せて帰る途中、家のそばで突然心臓麻痺で死んでしまう。

家のそばの巨大なゴムの木、そこに上ると父の声が聞こえるとある日シモーンが母に告げ、母もそこに上って独り言を言うようになる。

寂しいドーンはやがて勤め先のジョージに曳かれていく。ドーンがジョージとキスをした夜に木の枝が家に倒れて、何か意味ありげなシーンが展開。そして、シモーンがそんな母に反発する。

ゴムの木はその根が家を持ち上げたり配水管をふさいだりと障害になってくる。それを切ろうとするとシモーンは抵抗、しかし嵐の夜に家が破壊され、家族は別の土地を求めてその土地を去ってエンディング。

じゃあ、なんのためにあの木にこだわったの?次男が木の回りに水をまいたり土を蒔いたり、くぎを打ったりしたシーンの意味は?と、それぞれのシーンやエピソードが掘り下げていかずに次のエピソードになるので、どれも中途半端になった気がする。そして結局、何か見えないままに終わってしまった映画だった。

確かに、シモーンはかわいい、ドーンが落ち込んでしまうシーンもわかるが、長男のティム、次男、三男の存在感は皆無に近い形になっている。どれもこれも結果が見えないのです。家族の再生でも、自立でもない。とらえどころがなかったのがちょっと残念な一本でした。


「さよなら渓谷」
大好きな真木よう子さん主演の作品ということで見に行った。
ちょっと作り込みすぎた気がするが、なかなかのレベルの映画だった気がします。でも、懲りすぎですねしまいにはしんどくなってくるのがちょっと残念。

原作は吉田修一なので、自ずと物語のパターンは見えてくるし、映像化が難しいというふれこみのお話なので、大森立嗣監督以下スタッフが気負ってしまったのはわかるが、思い切ってそぎ落として、訴えたいメッセージをもっと前に持ってくる、つまり真木よう子大西信満の物語をきっちりと膨らませた方が良かったように思います。

大森南朋鶴田真由の夫婦の描写が不完全で、かえって中途半端になったし、さらに鈴木杏の存在もちょっと中途半端にしか見えないのが残念。

映画は渓谷のそばのアパートのようなところの一室、主人公尾崎俊介とその妻(?)かなこが抱き合っているシーンに始まる。呼び鈴で中断され、かなこが玄関にでると隣の女が宅急便を受け取ってほしいという。カメラが外にでると、なにやらマスコミが集まっていて、パトカーがやってくる。息子を殺した母親を逮捕にきたという。

こうして始まるのだが、尾崎という男、大学時代に集団レイプ事件を起こした前歴がある。その取材をする大森扮する渡辺、やがてその被害者がレイプ事件の後たどった不幸な人生を鈴木杏扮する渡辺の同僚が暴いていくのだが、その被害者の女性こそかなこであった。

レイプ犯と夫婦同然になったかなこ。どういういきさつでそうなっていったかが何度もフラッシュバックを重ねながら描かれていくのだが、これはちょっとやり過ぎかと思えるほど繰り返しが多い。さらに、渡辺の妻と渡辺との冷たい夫婦関係のエピソードも挿入されるのだが、これが実に薄っぺらいシーンで終わらせているのもちょっといただけない。

犯人の母親と関係があったのではないかと警察は尾崎に詰め寄るが、そんな事実はない。にもかかわらずかなこがそんなことがあったと警察に証言、尾崎は逮捕されるが、二日後に証言を撤回、釈放される。

何事もないようにかなこは尾崎を迎え、二人の関係が、いい方向へ向かおうとするかに見えたところで場面が変わる。渡邉とその妻の関係も何気なく修復されたシーンが挿入される。しばらくして渡辺が尾崎を渓谷で見かける。尾崎はかなこと別れたという。幸せになりそうだったからだと言う尾崎に渡辺は「かなこと出会って、レイプ犯となった人生と、彼女と出会わずふつうの人生とどちらが良かったと思うか」と問いつめる。今にも返事しそうになる尾崎のカットでエンディング。

こうして振り返ってみると、なかなかの作品である。尾崎がかなこをレイプした後の後悔の念、さらに彼女と出会い、一緒に行動するようになり、かなこの望むことはすべて応えていく尾崎の贖罪の行動が痛々しいほどに胸に迫ってくる。このフラッシュバックが非常に多い。しかし、真木よう子の淡々としたつぶやくようなせりふが実にこの不幸な過去の映像にマッチングするのである。いや、不幸な過去だったのか。レイプ事件があってこそ出会えた尾崎という最愛の人物。この何ともいえないまどろこしいくらいの男と女の愛憎劇が切々と伝わってきたような気がするのである。

間延びでも、退屈でもない、凝縮しすぎたこだわりすぎの映像が今一歩傑作として完成させられなかったことになった気がする。本当に残念な一本。でも、近頃の邦画の中ではいい映画の部類に入る一本でした。