くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「スペル」

スペル

久しぶりのサム・ライミ監督作品。近年は「スパイダーマン」シリーズで派手なアメコミ作品が中心であっただけに、本来のサム・ライミファンとしてはちょっと物足りなかったところゆえ、かなり楽しみにしていました。
今回の作品、従来のサム・ライミらしいB級こてこてホラーの演出で作ったなつかしのホラーというイメージの仕上がりでした。大好きなサム・ライミ映像テクニックがあまり見れなかったのはちょっと残念。しかもオリジナルストーリーではあるものの、あまりにも判りきった種明かしはいただけなかった。まぁ、そこがかつてのサム・ライミかもしれませんが。

音を効果的に利用したホラー演出はなかなかのものですが、アメリカ映画お決まりの粘液大放出と血とグロテスクなショッキングシーンは古きよきゴシックホラーの世界。しかしいまや超大作も任せてもらえるまでになったサム・ライミ監督はそれを時間的な余裕というか、とにかく派手に採用していきます。そこにはかつての工夫を凝らしたサム・ライミ映像マジックは登場しません。ラストシーンで墓場からシャワールームへのジャンプシーンのみに懐かしいサム・ライミワールドが出てきただけというのはなんともさみしい。

物語の冒頭、まず苦しむ子供を抱えたり両親がとある一軒の屋敷へ。その少年はジプシーに呪いをかけられたらしくその屋敷の女主人にお払いを依頼します。しかし、すでに時遅く少年は邪悪な魔物に自国へと連れ去られてしまう。それを見た女主人は「再びお前と会うことになるだろう」とつぶやいて映画はクレジットへ入ります。この出だし、どこかで見たと思ったら「エクソシスト」でメリン神父が遺跡発掘場で将来であう悪魔の存在を匂わせるシーンに重なりますね。

そして本編は宣伝の通り、ふとしたことで逆恨みを買った主人公が、呪いをかけられてしまいます。3日間の恐怖体験の後に魔物に魂を取られてしまうという呪い。その恐怖体験が展開するのですが、非常に幼稚な伏線と田舎から出てきた主人公の都会で成功せんとする野心、さらにのろいを解くために教えられる血の儀式に、自分は菜食主義だからと反論する奇妙なアメリカ社会の矛盾、会社でのライバルとのいさかいなど、豊富なテーマが織り込まれていくのです。このあたり、以前のサム・ライミらしからぬところで、評論家がやたらほめる展開ですが、どうも私はいただけない。のどにこぶしがのめりこむシーンや目玉が飛び出すシーン、どろどろした粘液のシーンはかつてのB級映画時代のサム・ライミらしさが戻ってきたとはいえますが。

いまや神の存在も表に出てこないアメリカンホラー、相談相手になる霊媒師のアドバイスもどこかちぐはぐで、結局呪い返しで誰かに呪いを送ればいいなんて日本の「リング」の世界やん。その前に、かつてのお払いの女主人が魔物を倒し損ねて、自ら心臓麻痺で死ぬなんてまさに「エクソシスト」。とまぁ、あれこれとここ2,30年のホラー映画の名作を取り混ぜた脚本は練られているといえば練られているけれども、それならB級低予算ホラーに徹して欲しかったですね。確かに予算的には低予算らしいですが、やはり心に余裕が出てきたのでしょうか、ギラギラがないように思います。ちょっと気取りすぎたB級ホラーってのはやはりサム・ライミの世界じゃないと思います