くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「大菩薩峠」「大菩薩峠竜神の巻」「大菩薩峠完結篇」

大菩薩峠

大菩薩峠三部作を見ました。
第一作、第二作竜神の巻は三隅研次監督作品です。
まさに日本時代劇の様式美の世界です。横長のスクリーンを効果的に使用し、調度品の配置や、光の演出でまさに歌舞伎の延長である日本の時代劇が展開します。
大映作品なので東映時代劇とは少し様相は違いますが、基本的に、血を赤で染め上げ、背景や刀のグレーの光で浮き上がらせるあたり、これこそ様式美の世界ですね。

やはり、市川雷蔵は時代劇が本当によく似合います。あの鋭い視線で見据えられると引き込まれてしまう迫力がある。しかも、あのシャープで繊細の姿が本当に和服で引き立ちます。

ご存知のように、この物語の主人公机龍之介は剣の道に引き込まれ、まるで魔性のごとくその技量を磨かんと人をあやめることもなんとも思わなくなるというところから物語が始まります。やがて、その殺生の繰り返しが次第に自らを剣の業の地獄へと引きずりこんでいくのですが、その魔性の研ぎ澄まされた怖さが第一作には
見事に出ていて、市川雷蔵ならではの魅力になっています。


その第一作のクライマックスでぷつりと終わって続く第二部「竜神の巻」は、自らの業に悟りを開き、次第に過去の非業を悔やみながら、新しく出会う人々との人間関係、さらに龍之介を仇と追う若き侍とのかかわりを第一作同様に軸とし、自ら殺傷せしめた妻に瓜二つの女と出会うことで、さらに自らの業の深さを知る展開になっています。

後半で、両目を失明し、それでもなおさらに魔性の剣が冴え渡るクライマックスは圧巻。セット撮影ながら美術と演出の醍醐味が堪能するストーリーとなっています。
脚本は三部作すべてに巨匠衣笠貞之助が参加しているところはこの映画に対する会社の意気込みを感じます。
そして第二作もクライマックスでぷつりと終わって第三部に続きます。まったくよくできたシリーズです。


そしていよいよ第三部完結編。ここで監督は森一生に代わり、演出のスタイルも若干変わります。
どちらかというと娯楽時代劇のような様相になり、三隅研次監督のような画面の構図にこだわった様式美の世界は消えてしまいますが、一方で豪快な展開になり、娯楽色が表に出てきます。

机龍之介に腕を切り落とされて、その腕が地面に転がるなどの男くさい演出が目立ち始めます。
第二部でかなり自らの業に悟りを開かんと静かにうつむく姿のイメージが強かった机龍之介は、再び剣の魔性の虜となり、狂ったように辻斬りをしたり、魅入られたように剣を見つめるような場面が挿入され、やはり監督が変わるとこうもイメージが変化するものかと思いますね。

しかしそんな男くさい演出がクライマックスの洪水に消えていく机龍之介の壮絶なラストに見事に生きてきて、このあたり森一生演出であったのかとうなってしまいました。

全体に、まさに映画全盛期の娯楽時代劇で、勧善懲悪あり、お色気あり、ちゃんばらありというてんこ盛りの面白さでした。そしてそこに希代の名優市川雷蔵が存在したというべきでしょうね。