くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「昨日消えた男」「新・平家物語 義仲をめぐる三人の女」

昨日消えた男

「昨日消えた男」
マキノ正博監督が1941年に製作したサスペンス時代劇の傑作。謎を解いていくおもしろさもさることながら、軽妙なせりふと映像のリズムでぽんぽんと展開していく軽やかな演出が見事な一本でした。

映画が始まると登場人物が丁寧に紹介され、江戸の長屋へ舞台が移ってタイトルバック。
長屋の大家勘兵衛が間借り人の武士篠崎源左衛門に借金の取り立てにやってきている。そこの娘お京(高峰秀子)を借金の形に連れ帰る問い詰め寄りに長屋の人々が怒り、源左衛門もどうしようもなく弱りはてる。

この勘兵衛がそののち殺されたところから物語の本編が始まる。ちょっと軽薄だが実に人のよい文吉(長谷川一夫)が物語の中心になって、次々と現れては消える容疑者を影のように浮かび上がらせていく。

不振な様子で夜中に帰ってくる源左衛門、意味ありげなせりふを語る源左衛門の隣の若侍、突然、羽振りのよくなる鍵職人、信じられない大金を持って帰る男、なぞめいた伏線を次々に登場させ、まさに正統派ミステリーのごとく展開するストーリーは秀逸です。

道化のように「なるほど、そのとおり」と掛け合いをする二人組の男をスパイスに、おどけた中におっちょこちょいの岡っ引きなどどれもこれもの人物が実によく描けている。しかも、古きよき時代劇、セットが豪華であり、カメラも実に豪快なショットをとらえていく。

クライマックスは、実は文吉は遠山の金さんで、その名奉行ぶりで一気に謎を解いて真犯人を暴いてめでたしめでたし。
非常に緻密に練られたサスペンスフルな時代劇で、しっかりしたストーリー展開の見事さは脚本を担当した小国英雄の手腕によるところがかなりあると思います。
高峰秀子はわき役ですが、やはりかわいらしかったです。

ネット情報ではダシール・ハメット原案となっているが小国英雄のオリジナルという解説もある。また、同じ小国英雄脚本、市川雷蔵主演で後に同じ題名の映画がある。こちらは若干設定が違うが似ているストーリーなので、リメイクかもしれません。


「新・平家物語 義仲をめぐる三人の女」
先日見た溝口健二監督、市川雷蔵主演版の第二部(後第三部があります)です。
高峰秀子は完全にわき役で、登場シーンも後半のわずかしかありません。

監督は衣笠貞之助にかわり、主演は長谷川一夫になります。
木曽義仲が平家を都から追い払い、京都へ入京してから源の頼朝に追い出され命を落とすまでが、宮廷との陰謀術策、鎌倉へ人質に出した息子への思い、さらには義仲に関わってくる三人の女たちを描きながら、クライマックスにスペクタクルな合戦シーンを盛り込んだ娯楽映画に仕上がっています。

正直、純粋におもしろい映画でした。
それぞれの女たちが義仲に絡んでくる下りはかなり荒い展開になっていますが、そのあたりの展開をさらりと流していくと実に全体のお話が起承転結にクライマックスへ向かっていくおもしろさがよくできています。

それぞれの女の情念が微妙な違いできっちりと描き込まれ、義仲への思いを貫いて死んでいく高峰、かなわぬ恋いながら、死語まで慕う女、子供への愛情のために自分の名誉を捨てて鎌倉へ引き連れられていく巴御前に扮した京マチ子などがそれぞれに実に哀れなムードを醸し出しています。

大映が三部作の大作として作っているだけあって、なかなかお金のかかった映像シーンの連続で、日本映画黄金期の息吹を感じさせる娯楽映画だったと思います。