くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「斬る」「薄桜記」

斬る

今年初映画はやはり雷蔵特集。傑作二本である。
「斬る」
昨年みた「大菩薩峠」の三隅研次監督作品である。
大菩薩峠」の時も感じたのですが、その画面づくりの美しさである。
映画が始まると、ふすまの一部が大写しで画面に映る。その左の端から藤村志保扮する藤子の横顔がクローズアップで映し出されます。このシーンだけでこの映画はただの作品ではないと直感してしまうほど見事です。続いてカメラが天井から真下に藤子がある寝室へ進入するシーンが続き、一人の女性を殺害する場面へ続きます。

そのあと、その罪をとがめられて自害させられる場面のまた見事なこと。画面左に大木の切り株が置かれ、右に介錯人(実は夫)が刀に水を浸す。刀の反射がきらりとアップで映し出される。まさにこのバランスのとれた構図は様式美の極致である。またあるときは障子を三枚画面右、中央、左に配しその隙間に市川雷蔵扮する信吾、その父、そして妹をとらえる画面割りの美しさもまた見事である。

物語は藩の堕落を正さんと身を賭して藩主の妾を打った信吾の母。その彼女を助命を願うために家臣たちが企てた施策の結果生まれた主人公信吾。さらにその彼が成人してひとかどの侍となるも、再び、藩騒動や幕府と水戸藩との諍いのなかに巻き込まれていく中で、自分をかわいがってくれた上司を守れなかったことから自害するまでを描いていきます。

三隅研次監督の映像美が随所にみられ、その美しさは目を見張るものがあります。おそらく今となってはこのような美学を持った監督自体が皆無に近い中、そんな映像美をみただけでも見たかいがあったというべきでした。見事です。


さて二本目は時代劇の傑作「薄桜記
勝新太郎堀部安兵衛)が雪の降る中討ち入りにいく場面に、かつて出会った一人の武士のことを語り出すところから映画は始まります。
続いて、高田馬場へ敵討ちに行く勝新太郎(中山安兵衛)が市川雷蔵扮する丹下典膳とすれ違うシーン。それに続く高田馬場での中山安兵衛の果たし合いのシーンが非常にダイナミックで森一生監督の演出手腕がみられてすごいです。

とにかく全体に脚本(伊藤大輔)のすばらしさと森一生監督のダイナミックなカメラワークが生み出す躍動感あふれる映像が見事にコラボレートしてすばらしいできばえになっています。

前半三分の一に小刻みに挿入される数カットのコミカルなシーンのあそびの妙味。中盤にいくにつれて主人公に絡む女たち、さらに愛する千春との結婚、それに絡んでくる中山安兵衛との男同士のドラマ、淡いラブストーリーなどで物語に深みが増してきて、さらに後半、赤穂浪士の討ち入りが絡んできてストーリーがさらに広がりを見せてくる物語構成のすばらしさ。

こうした緻密さとユーモアを交えた娯楽を知る伊藤大輔の脚本の手腕、さらに森一生の豪快な画面づくりが作品全体をスケールの大きなものに仕上げているのです。
大きく俯瞰で撮るかと思えば、セットを利用した時代劇映像を生み出して、橋の上での夕日をバックにした対決場面を作り出したりと、多彩な演出手法を使って、単調にしない工夫も忘れていません。

クライマックス、片腕になった丹下典膳と妻を手込めにした敵方侍との大殺陣のシーンは圧巻。真上からとらえたカメラは横に寝転がりながら縦横に敵を斬っていく主人公の姿、さらに絡む敵との構図のおもしろさ。そして、そこへ駆けつける堀部安兵衛のだめ押しの見事な殺陣のみごとさ。
市川雷蔵の殺陣も見事だが、勝新太郎の殺陣はこれまた見事で、身のこなしのうまさは天才的である。

そして、すべてが終わった後、さらに討ち入りの夜のシーンを入れて、大きなカメラワークでとらえた後に見せる「終」のエンドタイトルで思わず拍手をしたくなるほど圧倒されるのです。まさに傑作、これこそ映画の醍醐味というほかありませんね