くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パルムの僧院」「カティンの森」

パルムの僧院

パルムの僧院
ジェラール・フィリップ特集上映の一本、以前から見たかった作品のうちの一本である。
3時間というこの時代では大作映画であるが、なかなかどうして面白かった。つまり脚本の構成がいいのだろう。
タイミングよく見せ場を用意し、飽きさせずに観客を引き込んでいく。しかもクリスチャン・ジャックなる監督の演出もなかなかこっていて、権力と金、そして欲望を登場人物があらわにすると画面が斜めの構図になります。つまりよこしまな心というわけですね。

そのほか、カメラを大きく移動させたり、鏡による演出、画面を調度品や窓枠などで区切る構図など、映像的にも見せてくれるから、演出も面白いのも確かです。ただ、せっかくのこうした工夫が、もともとのネガの退化で光と影がかなりつぶれているのがちょっと残念。将来デジタルマスターしていただけるといいのですが。

物語は冒頭はるかかなたから主人公ファブリス(ジェラール・フィリップ)がワーテルローでの戦いの後戦功を立てて戻ってくるところから始まる。途中、一人の追いはぎ会い金貨を一枚奪われるが、この追いはぎがラストシーンでちゃんと生きてくるからなかなかのものである。

この作品もスタンダール原作のためか、主人公はやたら女たらしである。叔母であるサンセヴェリナ公爵夫人に愛され、庇護されながらもいつの間にか恋心に変わっていく様は女心というべきでしょうか。しかし、剣を使わせると腕前は抜群で、しかも二枚目、もてない理由もないのです。
たまたま芝居の一座が来ていてその女優マリエッタに言い寄るものの、前恋人のジレッチに憎まれ争いの時誤って殺してしまう。そしてパルムの僧院と呼ばれる塔の形の牢獄に入れられるまでが物語の発端というべきである。そしてその牢獄の窓から下を眺めてあどけない美しい女性クレリアを知る。次第にお互いが惹かれあい、これが物語の本筋となっていく。

この女性、可憐というほかないうら若さですっかりファブリスは虜になるが、一方でファブリスをねたむ警視総監ラッシにひそかに暗殺されんとする。徐々に薬を盛られ、次第に体力が衰えてくる中、このクレリアが公爵夫人と共謀してファブリスを脱獄させるという展開がとにかくはらはらどきどきである。そして一方で、ファブリスのクレリアへの思いもさらに高まっていき、せっかく脱獄したものの、「牢獄からは見下ろしていたら彼女に会えたものを」とクレリアとあえなくなったことを公爵夫人にうらみつらみさえも言うのである。

ところが、クレリアが別の男と結婚することでファブリスを忘れ、そのかわり彼を助けるよう神に誓ったことを知ると、再びファブリスの思いは高まっていく。
時は次第に庶民たちの不満が高まり。暴動が起こる。その一方で、パルムに戻ったファブリスはクレリアと最後の出会いを果たし、公爵夫人ともわかれ、再びパルムの僧院へはいって生涯を暮らすというエンディングである。

権力と欲望に堕落したフランス、やがて庶民が立ち上がって時代が変わらんとする時代を背景に描かれる美しい恋物語と人々の人生それぞれの哀切。見せ場見せ場までの展開が非常に巧みで、これで画面がもっとシャープで状態がよければもっと面白かったと思えるほど完成度は高い。
スタンダール原作ゆえ有名なのか、映画の作品としての完成度ゆえに有名なのか、どちらをとるにせよ、私はこの映画よかったです。個人的に名作であろうと思うのですがいかがでしょうね。


もう一本は巨匠アンジェイ・ワイダ監督の「カテインの森」
圧倒的な映像のテンポで重厚な歴史の真実を私たちに訴えかけてくる傑作でした。
それにしてもアンジェイ・ワイダ監督はすでに84歳、その年齢にもかかわらずここまで迫力のある映像を作り出すエネルギーはひとえにこの事件に対する執着がいかほどのものかを知らしめられますね。

物語は1940年、カティンの森で起こったソ連によるポーランド将校大量虐殺事件、そしてこの事件が後にドイツがソ連の仕業であると解明するも、終戦ソ連はドイツの仕業であると宣伝し、その真相に迫ることがタブーとされた事件である。
この歴史の汚点をワイダ監督はあらゆるカメラ視点とリズムでスクリーンに表現し、また一つのテーマに対し徹底的に執着していく作り込まれた脚本によって完成度の高い作品となって仕上がっています。

また、画面が本当に美しい。特に戦中の重厚な迫力ある映像に対して戦後のシーンになると雪景色や枯れた森、町並みの情景が何ともいえなく美しい。しかし、そこに動めく人々からは言葉にならない重苦しさが漂ってます。真実を語ることを禁じられた人々が世渡りのすべとして沈黙を通すことにした重苦しい雰囲気が美しい景色の中で対照的に映し出される様は息をのみます。

一人の妻アンナの物語がその夫の物語アンナの義父、夫の同僚、その妹、兄と絡み合うように展開するストーリーの緻密で説得力のあること。
カメラがとらえる登場人物たちは時に静かな手持ちカメラの前で、また、路上から空を仰ぐ視線の中で、またあるときは巨大な国が占領国を見下ろすがごとくクレーン撮影で作り出す画面の中でぐいぐいと私たちに迫ってきます。

エンディング、一冊の日記帳がめくられ、事件の日の後の白紙のページに続く暗闇のシーン、この重苦しさは私たちに何を訴えてくるのか、
いまだ衰えないアンジェイ・ワイダ監督の力量に改めて満喫した傑作でした