くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「弁天小僧」

弁天小僧

弁天小僧
伊藤大輔監督が市川雷蔵と組んだ第一作。小気味よい展開がとにかく面白い。娯楽時代劇とはこういうものかと思わず納得してしまいました。

冒頭、賭博場のシーンから、筆頭家老をおじに持つ侍とその仲間たちが丁反に興じる様子が描かれます。そして次の悪事を計画し乗り込まんとしたところそこへ一足先に入り込んで菊の助(市川雷蔵)の策略が先に成功し、見事な機転でその侍たちをいなしてさっさと逃げる。この冒頭のほんのわずかな展開でこの映画の敵と味方をはっきりと紹介するというなんとも見事な脚本である。そして、この展開の前後で、主要な人物の性格、設定をすべて観客に知らしめる。やがてこの二組の敵味方が物語を引っ張っていくことになる。

さて、そこからはこの物語の本筋へ入っていくが、ちらほらと物語のポイントになる登場人物がはめ込まれていく。特に遠山金四郎勝新太郎)の登場するくだりがなんとも粋である。クライマックスで相まみえる金四郎と菊の助、川岸でのほんの些細なやり取りが時代劇ファンにはたまらないでしょうね。

とにかく伊藤大輔監督の演出力量が遺憾なく発揮されている上に、脚本がなんとも緻密に面白く描きこまれているために、次は次はと目を話せないストーリー展開なのです。どうやって菊の助たちが最後の大勝負を仕掛けるのか、それに対し迫りくる金四郎の奉行たちの行動、そして、悪事をたくらむ侍たちの謀略、菊の助が話さずに持つ肌守りを始め見え隠れするラストシーンへの伏線の面白さは本当に絶品です。娯楽映画だからと単純な勧善懲悪で適当に作ったのではなく、まったく荒さがない。だからたのしい。

菊の助がクライマックス宿屋の踊り場で搦め手たちにとりかkもまれ、その寸前、本当の父親と妹の姿を見、そしてお互いがお互いを見つめあうシーンは、いかにも浪花節的ではあるものの涙があふれてきました。そして、どうにも逃げ切れなくなったところで短刀で自ら命を絶たんとするところへ御用のちょうちんが群がり「弁天小僧を捕った」という声と共にカメラはぐっと引く。町中に広がった御用のちょうちん、画面の中央に固まる弁天小僧を取り押さえたちょうちんの山。そしてエンド。拍手したくなる見事な娯楽時代劇でした。