これまた久しぶりに、ヒッチコックの名作を見る。午前10時の映画祭であるが、さすがにこのあたりになると満席であった。
この作品についてはほとんどの場面は覚えていると思っていたが、やはりクライマックスまでの行き詰るシーンの積み重ねはかなり忘却のかなたであった。それにしても良くできている。導入部、窓のブラインドが開いていく気の利いたクレジットシーンが終わると、ジェームズ・スチュワートのアップ、カメラが引くとギブスをはめた足と状況をワンカットで説明してしまう。
さらに彼の職業、そしてこの骨折のいきさつが壁に貼った写真をなぞるように一気に私たちに伝え、フィアンセの存在など登場人物の紹介とその現在のいきさつなどが言葉巧みなセリフの中に挿入されていくあたりはまったく職人芸である。
そもそもの原作をヒッチコックならではの大幅改変したいわばオリジナルに近いこの作品は、主人公の部屋の中からまったく外へ出て行くことなく、カメラが縫うように窓の外へ出たかと思うと中へ戻ってくるという移動撮影と、主人公が覗く双眼鏡や望遠レンズを通した視野の狭さで観客を完全にこの舞台の中に引き込んでしまう。
しかも、窓の外に見えるアパートのセットの見事なこと。ある場所はせり出し、ある場所はガラス張り、ある場所は小さな窓で、あるところはベランダがある。どれをとってもすべて、この物語を盛り上げるために計算されつくされた構造になっている。
殺人犯の部屋が他の部屋からは見えず、主人公の窓からしか覗けない仕組み、しかも主人公からはすべての部屋の住人の行動が見える。かすかに通りの向こうが建物の隙間から見え隠れする。まさに芸術品である。
最初は興味半分から、そしてやがて、主人公にかかわるフィアンセ、看護婦などが疑いの目に参加し、そこへ友人の刑事が絡んでくる。
中盤あたりまでは機関銃のごとくセリフの応酬で、このあたり、人によってはしんどくなるかもしれないが、犬の死骸、殺人者の部屋への進入、指輪の奪取、警察の踏み込みと畳み掛けるクライマックスは天才的といわざるを得ない。しかもここに至ってもカメラは部屋から出ないのである。
そしてクライマックス、フラッシュによる応戦シーンへと続くが、私の印象ではこのシーンがもっと長かったように思ったが、意外に短く、一気にエンディングへ、そしてエピローグとなる。
グレース・ケリーが抜群に美しい。この点も再確認してしまった。
個人的にはヒッチコック映画の中では好みの作品ではないものの、映画としては何度見ても傑作である