くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「すべて彼女のために」「倫敦から来た男」

すべて彼女のために

すべて彼女のために
フランス発のサスペンスでポール・ハギスがリメイク権を取得したという話題作である。
真っ暗な画面に殴り合いのような音が聞こえタイトルが始まる。血だらけの主人公ジュリアンが車をバックさせている。いきなりのショッキングな導入部である。そして物語は3年前に。

畳み掛けるような展開で本編へ引き込んでいくと、濃厚なエレベーターでのラブシーン、この夫婦と息子の存在を紹介する。そして翌朝、何気なくコートについた赤いものを洗面所で流そうとすると、なんとそれは血、次の瞬間突入してくる刑事たちに一気に妻は逮捕される。

無実の罪にもかかわらず証拠がそろって有罪になるところからが物語ではあるが、この映画、真犯人を夫が探すという構図ではない。映画の途中で犯人を登場させるがほんのワンシーンのみ。結局、濡れ衣になったいきさつはそのシーンのみで語られて、後は判決で20年の刑が確定してしまう。

ここからが見せ場である。夫のジュリアンはネットで脱獄の常習者を探し、彼から脱獄の極意を伝授され、計画遂行に向けてひとつずつ問題をクリアしていくのが見所なのだ。このサスペンス、まるで犯罪を犯す周到な計画を練るがごとく壁に書いたメモや写真、この緊迫感がたまらない。

一つ一つ問題点をクリアしながら、あっという展開もないものの、じわじわと計画が進んでいくさまが丁寧でおもしろい。
クライマックスのスピーディな展開に引き込むまでをねちねちと描き、一気にハイテンポで脱出劇を描く。時に疑問は公園でジュリアンに話しかけた女性は実は真犯人なのか?髪の色が違うように思いますが、真犯人でないとこのシーンの意味がないようにも思います。

アメリカ映画的ではないにせよ、爽快なハッピーエンドが見終わってすっきりする作品です。


もう一本が「倫敦から来た男」
タル・ベーラというハンガリーの監督の作品で原作は「メグレ警視シリーズ」のミステリーの巨匠ジョルジュ・シムノン

モノクロームワンシーンワンカットで描く映像芸術の世界は正直かなりしんどいというのが感想である。
出だし、ゆっくりと、本当にゆっくりと岸壁についた船を下から上に右から左にカメラが動く。それは電車の管理室から見下ろす主人公マロワンの視線でもある。

そして目撃する殺人事件。このあたり、ほとんど夢見心地だった。
その目撃した偶然からマロワンが手にした大金。マロワンを見つめる犯人のブラウン、そして彼を追ってくる刑事。彼らの物語が独特のワンシーンワンカットと個性的なカメラワークで描いていくのである。

時にじっと見据えるかと思うと、カメラが後退、そこへ人物がフレーム印してくる。そして会話、ストーリーが展開していく。背後にとんとんというような音が繰り返されるかと思えば、テーマ曲のような静かな曲も流れる。
流れるようなカメラワークが独特の陶酔感を生みだし、引き込むかと思うとまた離れていく。真っ暗な画面がしばらく続くかと思えば突然電灯がともされ、シーンが再開する。

美しい構図から生み出される動きのあるカメラ、ワンシーンワンカットの緊迫感、そしてモノクロームの生み出すフィルムノワール色がなんともいえない魅力である。

とはいえ、2本目であったせいもあるが何度もガムをかみながら眠気との戦いであった。この監督の作品には7時間を越えるものもあるらしいが、とても持たないのではないかと思う。
映画としては見事な作品ながら、まだまだ私は好きになるレベルの映像ではなかった気がする。