くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「春琴抄お琴と佐助」「マダムと女房」「東京の女」

春琴抄お琴と佐助

春琴抄お琴と佐助」
田中絹代生誕百年上映の一本で、谷崎潤一郎の原作が初めて映画化されたときの作品である。
すでに年月もたち、非常に見づらい状態ではあるが、古き時代の大阪の風情が描かれていて、こうしたクラシック映画を見る楽しみの一つである、リアルタイムの情緒を堪能できた。

主演は田中絹代と当時最高の二枚目スターといわれた高田浩吉、目の覚めるような二人の若い日の姿で描かれた切ない恋物語は、何度も映画化されているとはいえ胸が熱くなります。
特に映像的な秀逸さはありませんが、そこかしこにかいま見られる花や鳥、人物の明瞭な描き方など素直な画面に好感が持てます。


「マダムと女房」
いわずとしれた日本初のフルトーキー作品としての名作。

全体にアメリカン喜劇の風情が見え隠れする軽妙な演出が施され、繰り返しや、単調な中に見せる笑いのエッセンスが何ともおもしろい。
出だし、一人の画家が写生をしているところへ主人公がやってくる。そこで繰り広げられるコミカルな会話の応酬とそれに続く、風呂屋の前でのマダムの紹介、そして一転して引っ越してきた主人公の家の女房や娘たちの描き方が本当に的確で引き込まれます。

背後に聞こえる猫の声、目覚ましの音、隣家から聞こえるジャズの音など、トーキーを意識した作品づくりの中にどたばたに近い笑いがちりばめられ、飽きさせないストーリー展開は何とも秀逸です。しかも、画面の構図がなかなか美しく、冒頭の写生のシーンからそれぞれの家のセットの配置、まるでアメリカの郊外の家同士のような家と家の並びなど、明らかにアメリカ映画を意識した映像づくりがみられ、そこがどこか不思議な異国情緒と日本的な笑いとアメリカ喜劇のユーモアが混ざって日本映画と思えないような無国籍の味わいも感じられます。なかなかの秀作であると私は思いました。


「東京の女」
小津安二郎監督作品で、サイレントです。この作品で小津監督は自らの特色であるローアングルと静止画面の演出を確立したといわれる一本で、小津安二郎の映画を見るためには欠かせない一本です。

物語は姉と弟との二人暮らしの生活を描き、弟が姉に持ったふとした疑念から生まれるサスペンスフルな展開をつづっていきます。
時に、手元のストーブとヤカンをアップで画面のほぼ中央にとらえ、背後にピントを合わせずに姉が化粧する姿を入れるなどの技巧的なシーン、路上に落ちている紙くずを意味ありげにとらえるシーンなど、後の小津作品にみられるさりげないインサートカットが作品の質を高めています。

物語は単純で、ローアングルなどの個性的なカメラはみられるものの、まだ会話の繰り返しによる絶妙のリズム感を生み出すには至っていないまさに小津芸術黎明期の作品といえるでしょう。
サイレント映画であるので、ちょっとしんどいといえばしんどかったですね。