くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「大人の見る絵本 生まれてはみたけれど」「お早よう」「東

生まれてはみたけれど

「大人の見る絵本 生まれては見たけれど」
この映画は本当にしみじみと心に迫ってくる秀作でした。なんといっても子供の描写が実に生き生きとしてほほえましい。それでいてじわりと現実味のある展開がとっても奥の深いもの感じさせるのです。

物語はシンプル。勤め先の専務の家のそばに引っ越してきた社員家族の物語。主人公はこの家の兄弟二人であるが、専務の子供や地元の少年たちと遊ぶ中に、いつの間にか大人たちの社会の上下関係さえも絡んでくる。

ある日、専務の家で活動写真を見るということになり、子供たちも遊びに行くが、そこで主人公の少年の父がひょうきんな顔をしてご機嫌をとっているフィルムを見せられ、どうしてお父さんは社員で、専務は偉いのと迫るのである。

でも、専務から給料をもらってご飯を食べてるんだといわれ、腑に落ちない兄弟はすねて、ご飯を食べない。しかし母親に握り飯を作ってもらい、渋々食べるうちに、いつの間にかしかられた兄弟は父の立場や友達のお父さんが専務であることの現実をさりげなく受け入れ、子供同士は仲良く学校へ向かってエンディング。

大人の世界を納得しながら、子供同士は訳へ立てなく親しく接するラストシーンは実にすばらしいものがある。子供同士の遊びで呪文をかけるとひっくり返り、また解くと立ち上がるというエピソードや、それぞれの父親の車を通じて偉いとか強いとか競争する下りは、自分の子供時代にも経験があり、非常に細やかながらピュアなエピソードが羅列されるくだりもとってもいいのです。

サイレント映画ですが、日常のさりげない出来事を抜群の感性で感じ取って、映像として組み立てたその手腕には頭が下がる。子供たちの動きのそれぞれはどれも計算されたようにきっちりと動作をするあたりも見事なものがある。いい映画でした。


「お早う」
軽快で小気味良いテンポで描くモダンコメディのおもしろさ。日常の普通が笑いになる。徹底的に書き込まれた脚本の中のせりふのおもしろさと、さりげない仕草を繰り返す笑いのペーソスの生み出すうまさは絶品の一本。これもまた小津映画の見所の一つである。

映画は東京近郊の新興住宅地。平屋建ての同じような家屋が建ち並び、真ん中の通りを彼方に土手が見える景色を俯瞰でカメラがとらえる。真ん中の通路に左右から抜けていく奥さんたちの姿がまるで舞台劇の如し。

物語は町会費が会長に届いていないと噂する主婦の会話から、始まり、さりげない日常の中の噂話が噂話をよんでアイロニーいっぱいにおもしろおかしく展開していくふつうの世界。

中盤から、テレビのことで口論になった林家の二人の兄弟が口を利かなくなり、それがまた、学校や近所の奥さんの憶測を生んでは話が盛り上がってくる。

大人たちが交わす挨拶などの会話を無駄だという子供たちの言葉に始まる日常生活のなにげない毎日が、これほどまでに色鮮やかに生き生きしてくるのかと思える展開に流れていくのは絶品。

子供たちが、おでこをおすとおならをするという一発芸に興じるあたりや、軽石を食べるエピソード、さらにはテレビの時代の到来を見せてくるエピソードなど時代色も鮮やか。

ラストは、近所の定年になった知人が電気製品のセールスを始め、林家がとうとうテレビを買う。それがきっかけで子供たちも口を利くようになり、学校へ行く途中でおならの一発芸をすると、おなかのゆるい友人が漏らしてしまって、その母親杉村春子の小気味よいせりふの後、物干しにパンツが干してあってエンディング。

さりげない日常なのに、とにかく楽しい。ふつうの日常ってこんなにも楽しいものなのかと、小津安二郎の感性のすばらしさに感心してしまう一本でした。


「東京の合唱(コーラス)」
たわいのない人情悲哀ドラマである。まだ小学生でしょうか、子役時代の高峰秀子が出演していることでも有名なサイレント映画。後の小津映画に登場するカロリー軒という定食屋がでてくる。

映画はとある中学校。髭を生やした先生に号令されて男子学生が校庭に横並びしているシーンから映画始まる。ここで主だった生徒の個性を描写して、物語は主人公の学生岡島の成人した現代へ。生命保険会社に勤務し、結婚、子供も三人いる。その長女美代子が高峰秀子である。

ボーナスがでるということで、自転車をほしがる息子に約束して会社へ行くが、不当解雇された定年前の社員のことで社長と喧嘩し解雇される。こうして物語の本編が始まるが、どうも、笑いのペーソスが今一つでちょっとテンポが悪いためか長く感じる。

娘の病気などのエピソードの後にかつての先生に再会。カレーの定食屋をしている先生を手伝う一方で同窓会を開催。その席で先生は男に新しい就職先を見つけてくれて、栃木の英語の先生が決まってエンディングである。

たわいのない作品であるが、これもまた小津安二郎作品である。