くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「海の沈黙」「アイガー北壁」

海の沈黙

今日も映画のはしご。
まずはジャン=ピエール・メルビル監督伝説のデビュー作「海の沈黙」

正直、全編ナレーションによるストーリー展開と登場人物が三人という中での心の葛藤を描いていく物語なので、しんどいです。

クローズアップや俯瞰、見上げるシーン、など画面の構図のテクニックを駆使し、人物の心の変化を伝えてきます。その背後にナレーションがかぶっていくのですが、前半部分がドイツ将校の一人芝居のような様相で、それをフランス人である叔父と姪が黙って見守るという展開なので、妙な陶酔感が襲ってきます。

中盤から後半、そのドイツ将校はパリへ行き、そこで自分の理想とドイツ本国の将校たちの言動が全く違うことを思い知らされ、意気消沈して、クライマックスを迎えるのです。
理想を熱く語る将校の姿、そして密かに恋を予感させる姪とのすれ違い、じっと見つめる叔父の視線が、絶妙のハーモニーで戦争のむごたらしさ、そしてフランスとドイツの確執を語っていく作品で、ジャン=ピエール・メルビル監督のデビュー当時のぎらぎらしたものがかいま見える映画でした。


もう一本はたまたま同じくナチス時代をあつかった「アイガー北壁」
この映画はとにかく美しいアルプスの山々を一気に見せる冒頭から、主人公二人が何とも楽しそうに山登りをするシーンを描き、そして背後にナチスドイツの政治的な思惑が渦巻く中、個人的なチャレンジでアイガー北壁に臨んだものの、悲劇を迎えるというラストシーンまで一気に展開します。

実話なので、おもしろかったという表現はよくないとは思いますが、手に汗握るアイガー北壁登頂シーン、そしてそこに展開する人間ドラマの厚みが圧倒的な迫力で迫ってくる物語はひとときも画面から目を離せません。
どうやってあの迫真の登頂シーンを撮ったのかと思わせるほどリアルで、アメリカ映画に見られる、さもセット撮影、トリック撮影ととられるような適当さは全くありません。

もちろん、パンフレットによれば、当然、危険を伴わない場所での撮影やセット撮影も行われたらしいですが、CGでごまかしたりせず、あくまでリアリティを最優先にした演出のすばらしさは映画全体のできばえ以上に賞賛に値するものです。

実際に有った悲劇とはいえ、ともすると史実を忠実に追うあまりリアリティばかりで退屈になりがちなこの手のストーリーですが、見せ場、引き込むタイミング、当時の背景などを絶妙の配分でストーリー全体に織り込んだ脚本が見事で、登頂シーンが大半を占めるにもかかわらず、時折ホテルで歓談する観光客の様子などを挟み込んだりして、おもしろいリズムを作り出しています。

もちろん、実際の人物が全員死亡しているのですから、現実に登頂する課程で起こった出来事はフィクションが混ざらざるを得ないのですが、それでも、作られた物語の部分が多いようで、それほどないところがこの作品のリアリティを高めたのではないかと思います。
なかなかの力作、秀作でした。