くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「フォロー・ミー」「破戒」

フォロー・ミー

フォロー・ミー
はじめてみたのは何年前だろう?とにかく私のラブストーリーベストテンに入る大好きな映画、今回午前10時の映画祭で初リバイバル
いさんで見に行きました。

やっぱりいいね、あの軽妙なせりふの応酬、洒落た画面転換がかもし出すなんともほほえましい、それでいて胸を打つストーリー。
笑いがいっぱいなのにどこか心に響いてくるものがある。しかも、ありそうでありえないファンタジックな展開。次々と画面に登場するロンドンの町並み、名所の数々。これこそが娯楽の王様映画の醍醐味です。

トポル分ずる探偵のなんともおしゃれな真っ白なレインコートと帽子、そして軽快に走るスクーター。まるでひねた天使のような微笑。いっぽうのイギリス紳士こてこての夫はこれまた隙のない紳士のいでたちがある意味コミカルに見えたりする。ミア・ファローのいかにもラフないでたちがここに絶妙のアクセント。

ストーリーは妻の浮気が気になって探偵を雇うというきわめて俗っぽい内容だからこれまたほほえましくなってしまう。

繰り返し繰り返しシーンが展開しそれが不思議なラブストーリーのリズムを生み出していく。キャロル・リード監督の手腕発揮。
悪者はまったく存在せず、ひたすら登場人物がやさしく人間味あふれる。すっきりした映像と、モダンな展開、リズミカルなストーリーテリングの妙味にひと時現実の喧騒など吹っ飛んでしまいます。やはり名作ですね


「破戒」
市川雷蔵特集で前回見逃した市川崑監督の名作である。もちろん、かつて見ているがすでに30年近くたっている。今回見直して、そのすばらしさを再認識できました。

まずすばらしいのはその映像演出の見事さです。冒頭、たけり狂っている牛と対峙している一人の男、牛の目のアップ、全景、牛と人のカット、この切り返しの見事さは見るものを一気に画面に釘付けにしてしまいます。そして次の瞬間一突きに殺される男、そして舞い上げられるからだ。市川崑監督の演出手腕の極致ですね。

そして続くのが一人の男を迎えに行く農夫の姿、道行ですれ違う主人公丑松(市川雷蔵)、この男を発見した村の人々の姿、小屋に運んで弔いの準備をする。
ここでこの物語の背景である部落民の現状が説明される。そして、そこへやってくる丑松。そして丑松の今の境遇が語られ、死んだのは丑松の父、そして語っている男は父の弟であるとわかる。

こうして、物語は本編へ入っていく。山村の今なお古い風習のままに生きる人たちの村、そこで教師をする丑松、そして親友土屋銀之助(長門裕行)。
市川崑ならではの見事な画面美術、カメラアングル、そして、芸術的な演出が次々と描写される中、部落民であることをひたすら隠す主人公の苦悩が語られていきます。

やがて、耐え切れず、生徒の前で告白するのですが、そこからの展開がすばらしい。
ふつうなら、ここで大団円を迎えるところであるが、ここから次第に岸田今日子ふんする猪子蓮太郎の妻が次第に表に出てくる。そして銀之助、校長などが次第に物語の主題の表に浮き上がる展開はなんとも秀逸というほかない。

「一人の傑出した人が時代を変えるのではない。周囲の人々が変えていくものである。その証拠に部落民であるあなた(丑松)を同じように接する寺の住職たちもいる」と切々と語る岸田今日子がすばらしい。今までほとんどせりふもなかったにもかかわらず、このあたりから次第に物語の中心に出てくるのである。

そしてラストシーン。岸田今日子ともども東京へ行く丑松の姿、そこへ追いつく銀之助の姿、生徒たち、そして生徒の一人が親から預かったゆで卵を丑松に渡す場面では思わず涙が出てしまった。

一つ一つのショットの美しさはいまさら言うまでもありませんが、切々と描いていく部落差別へのメッセージは見事に一本の作品として完成されていきます。これが名作ですね。しばらく席を立てませんでした。