くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「日本橋」「あの手この手」

日本橋

日本橋
泉鏡花の妖艶な女の美学と市川崑の目の覚めるような映像美がコラボレートした秀作でした。なんといっても、セットや調度品を泥粘土を塗って周りの色彩を浮き上がらせようとした市川崑の色彩へのこだわりには頭が下がります。

真っ赤な指輪や帯締めなどが画面の中に浮かび上がる様は見事というほかありません。さらに主演のおこうを演じた淡島千景の斜めに大胆にデザインされた帯柄、あるいは終盤できている長襦袢の赤い縞柄がしっとりした画面の中で際だつという演出もすばらしい。

物語は東京日本橋で芸者衆をかかえてお茶屋を営むお孝とことあるごとにお孝がライバル視する清葉(山本富士子)との物語。

かつて男に捨てられ、自殺した芸者の幽霊がでるという家に越してきたお孝がライバルの清葉のなじみの男に惚れ込んでしまい、その男に捨てられたために半ばふぬけのようになるも、再会の後正気に戻るが自ら命を絶つまでを描いている。

美術セットが抜群に叙情的で美しい上に、前述した市川崑監督の色彩へのこだわりがすばらしく、登場人物たちが浮き上がるように画面の中で存在する姿はどこか妖艶なムードを醸しだし、泉鏡花ならではのやや不気味な雰囲気もしっかりと映像となって伝わってくる様がすばらしい。

ストーリーや物語展開はそれほど劇的ではないにせよ、これこそ市川崑の映画と言わしめるに十分な貫禄のある作品でした。

「あの手この手」
芸達者が掛け合い漫才をすればこれほどおもしろい物語にあるのかと思わせる傑作コメディ。
せりふからせりふ、間合いから間合いの絶妙のテンポがとにかく楽しくて、次はどう、これからどうなるのと思わせるわくわく感まで見え隠れするのがじつにおもしろい。

久我美子の愛くるしいまでのお茶目な現代っ子の行動、とぼけた中に独りよがりの自分世界を作り上げてしゃべる伊藤雄之助の絶妙の存在感、必死でいい夫であろうとする喪知りに引かれる森雅之の演技、そのほかの脇役も何の狂いもなくストーリーの中で生き生きと受け答えする様も最高なのです。

志摩から一人家出をしてきた主人公アコちゃん(久我美子)が次々と森雅之扮する夫と奥さんの家庭で巻き起こすたわいのない騒動のかずかずがほほえましいほどに陽気で楽しい。屈託なく笑う久我美子の笑顔も最高で、「奥さん奥さん」と妻を呼ぶ森雅之の実直ぶりもコミカル。しっかり者の妻がどこか女らしく弱さを魅せる終盤の心地よい人情味がでてきてほほえましい。

さらに友人の産婦人科伊藤雄之助が物語の中で微妙な緩衝材になって盛り上げてくるから最後まで飽きさせない添加を持続させます。
ありそうでないような登場人物たちの受け答えが非現実的なようで一方でリアリティと呼べるアンバランスがまた笑いへつながる展開が見事なのです。

影を見事に映像に生かしたりする美学はやはり市川崑ならではの所もあり、平凡なストーリーなのにドラマティックなおもしろさを感じてしまったのはやはり久我美子のすばらしい存在感故であったかもしれません。楽しい一でした。