くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アトリエの春 昼下がりの裸婦」「穴」「あなたと私の合

kurawan2016-02-17

「アトリエの春、昼下がりの裸婦」
友人の絶賛の声に動かされて見に行きました。なるほど、褒めるだけのことはある韓国映画でした。監督はチョ・グニョンです。

一本続く道を1人の女性が歩いている。彼女の名前はジュンスク、夫は著名な彫刻家ジュングだが、彼は次第に筋力がなくなる難病を抱えていて、二人は、故郷の村に帰ってきていた。思うように体が動かない夫のために、ジュンスクはある日、市場で見かけた美しい体のミンギョンに、モデルになってくれるように依頼する。

ミンギョンの夫は、暴力を振るう男で、生活が厳しいミンギョンは、裸になるという抵抗はあったものの、ジュングのモデルになる。ジュングは、美しい肢体のミンギョンに魅せられ、再び彫刻を始める。そして、不自由だった彼の体は回復していったかに見えたが、それは一時的なものだった。

しかも、完成まじかに、ミンギョンの夫が怒鳴り込んできて、作品が破壊されてしまう。ジュングは最後の力で、顔だけを完成させ、ミンギョンの夫を銃で撃ち殺し自殺する。撃つ場面はないのだが、ミンギョンが警察に呼ばれ夫が殺されたというシーンで描写、彼方にピストルの音がしたので、ミンギョンがアトリエに行くと、ジュングが死んでいる。

全てが終わり、ジュンスクがアトリエに行くと手紙があり、ことの顛末が書かれている。ジュンスクを愛していたこと、自分がこういう病気になり、これ以上負担をかけたくなかったことなどが綴られている。そして、完成された顔の像はジュンスクのものだった。涙にくれるジュンスクのシーンでエンディング。

終始、静かに流れるストーリー展開と、さりげない音楽の挿入、そして、美しい景色を捉える画面は、韓国映画にしては上品な作りの映画である。唯一、ミンギョンの夫がいかにも韓国映画に出てくる感じの男性像だが、これを除けば、なかなかのスマートな仕上がりになっている映画でした。

夫への献身的な愛を捧げるジュンスクのひたむきさと、その愛に応えようとするジュングの純真さ、そこに、ミンギョンという存在を配置したさりげなさはなかなかのものである。ミンギョンが当然のようにジュングと愛を分かち合う俗っぽい展開にならなかったのが、この作品の成功でしょうか。本当に美しい男女愛の物語でした。


「穴」
5年ほど前に見た市川崑作品を再見。さすがに何度見ても傑作である。ポンポンとスピーディに展開するストーリー展開のリズム、次々とミステリーがミステリーを生んでいく構成のうまさ、絶品と呼んでもいい作品ですね。

オープニングの銀行内での密談の場面から、京マチ子扮する主人公の紹介、さらに彼女を利用してカネをせしめようとする犯人たちの思惑から、二転三転するストーリー展開と、まるで駆け抜けていくような爽快感に溢れている。

もちろん、市川崑ならではの独特のカメラアングルも絶妙、セリフの掛け合いとウィットに富んだセリフまわしのリズムといい、この面白さは唯一無二に近いかもしれません。

何度見ても、その面白さを楽しむことができる一本ですね。


あなたと私の合言葉 さようなら、今日は
市川崑小津安二郎のスタイルで映画を撮ったらこうなるのかというほど面白い作品でした。とにかく、皮肉っているのかと思えるような小津安二郎的なカットバックの繰り返し、セリフまわしの演出、据え付けるようなローアングルのカメラアングルもなどが、本当に楽しい。

しかしである。模倣というか皮肉ったようなカメラワークを使いながら、そして、小津安二郎映画のようなテーマを取り扱いないがらも、どこかモダンな雰囲気が漂うのは市川崑の映画というべきである。歌謡曲のようなものを挿入して、まるでプログラムピクチャーのような演出も取り入れる。

映画は若手社員が、目の前を通る女性社員を物色しているシーンから映画が始まる。

物語の中心は、やもめになった父親の世話をするうちに、結婚も諦めたような形になる主人公を中心に描かれる家庭のドラマである。展開も、小津安二郎が取り上げるホームドラマさながらに展開していくし、東京と大阪という舞台設定も実に似通っている。ラストも、父親に促されアメリカに旅立っていく主人公のシーンでエンディングを迎える。

娘たちを子離れできないままに老後に至る父の寂しい姿というのは、どこかで見たようなという感じである。市川崑作品としてはある意味異質な一本ですが、こういうホームドラマもオリジナリティあふれる映画に仕上げてみせると言わんばかりの監督の顔が見え隠れするほど、楽しい一本でした。


「処刑の部屋」
これは素晴らしい傑作。市川崑作品といえば、その映像美学が注目されるが、彼の演出感性の素晴らしさを見せつける一本でした。圧倒的な迫力で観客に迫ってくるほとばしるような若者たちのやり場のない憤りに圧倒されてしまいました。

早慶戦でしょうか、スタンドを埋める観客たちのショットから映画が幕をあける。主人公の克巳は父の勤める銀行へ行き、ダンスパーティの資金のために友人の会社の手形を割ってくれとやってくる。

金と女と喧嘩に明け暮れる克巳たち学生のやり場のない鬱憤を、そのエネルギッシュな映像で描いていく。原作は石原慎太郎、いわゆる太陽族映画の一翼を担った作品でもある。

街で声をかけた顕子たちに睡眠薬を飲ませて、強引に関係を持つエピソードが話題になったことでも有名な映画ですが、単なるエピソードというより、やはりその描き方の迫力にこの映画の値打ちがあると思います。

今の映画のように、普通にレイプシーンを見せるのではなく、これが犯罪と知りながらの心理描写のうまさ、自暴自棄に近い形で襲いかかる克巳のショットが素晴らしい。

もちろんこのエピソードが最大のものというわけでもなく、そのあとも、ただひたすら好き放題に暴れる克巳の姿は、見ていていたたまれなくなってくる。

最後は、思うままにした結果、拘束されリンチされ、挙句に若尾文子扮する顕子にナイフで刺され、「痛い痛い」と路地を這って向こうに行くショットでエンディング。

陰影を巧みに使った映像と演出にとにかく全編息を呑んでしまう作品で、これがもしかしたら市川崑の真骨頂の一つなのかもしれません。