「日本侠客伝 斬り込み」
井川徳道の美術特集の一本。
物語は東映任侠映画の典型的なストーリーでたわいもないが、クライマックスの道行きシーンはさすがに東映映画である。
藤純子が抜群に美しく、娘の寺島しのぶとは全然違う美しさはさすがに日本映画の至宝であっただけのことはあるなと納得。
主人公真三(高倉健)が住まいすることになる長屋の背景のセットの美しさ、町並みのセットの見事さはまさしく井上徳道の美術セットの見事さを伺わせる。マキノ雅弘監督の典型的な演出のおもしろさもさることながら、若すぎる高倉健の着流し姿もなかなかのものである。映画衰退期に入ろうとする時代の一本でした。
「車夫遊侠伝 喧嘩辰」
もう一本も井川徳道の美術特集の一本。モノクロームであるが、見事な美術セットにうなってしまう作品でした。
監督は加藤泰。
東京から大阪にやってきた主人公辰五郎(内田良平)が地元の車屋で世話になりながら、当地の人気芸者喜美奴との恋に落ちていく物語である。
出だしからの大阪駅のオープンセットの見事なこと、さらに明治末期の大阪の町並みのセット、さらにはクライマックスの渡辺橋のシーンのすばらしいこと。まさに芸術である。映画は監督の演出や俳優の演技、脚本や音楽だけではないというのが納得できるすばらしい映像美術でした。
ただ、物語は今ひとつで、結婚するとかしないとかを仰々しくわめくばかりで喧嘩と祝言のすったもんだがしつこいほど繰り返され、そこに東京からやってきた柔術家が大阪でやくざ商売を始めるという荒唐無稽な展開からクライマックスまでうんざりするほどの適当なストーリーである。
しかし、何度も書きますが、場面場面それぞれの画面の美しさは本当に幻想的で、展開のばかばかしさはそっちのけで見入ってしまう魅力があると思います。必見といってもいい芸術作品かもしれませんね