「メイン・テーマ」
40年ぶりくらいにスクリーン見直したけれど、いい映画ですね。森田芳光ワールド全開の悪ノリシーンを散りばめながらも映画のテーマがぶれないので、ラストまで楽しめます。映像を楽しめる映画というのは少なくなりましたね。監督は森田芳光。
幼稚園、主人公小笠原しぶきが園児たちを送り出す場面から映画は始まる。密かに思いを寄せる父兄の一人の御前崎がやってくるとウキウキするしぶきだが、まもなくして御前崎親子は大阪へ引っ越してしまう。関西には妻の所有する家があったのだ。消沈するしぶきの前に突然マジシャン志望で全国を回っている大東島健が現れる。そして大阪へ行こうとするしぶきを強引に車に乗せ送ることになる。
大東島は、一人のジャスシンガーカオルのことが好きだが、カオルは実は御前崎と不倫関係にあった。関西までしぶきは御前崎を追いかけてきたが御前崎の妻に結局追い返される。しぶきは姉が住む沖縄を目指すが、実は大東島も沖縄に来ていた。さらにカオルも沖縄のクラブで歌い、彼女を追って御前崎も来る。
思春期の少年少女の恋愛と、大人の男女への憧れと恋を交錯させながら、森田芳光らしい小ネタの数々を散りばめて賑やかに描く映像がとにかく楽しい。
やがて少年少女と大人たちの恋は破れ、新しい幼稚園で働き始めたしぶきの前に二十歳の誕生日を祝うために大東島が現れる。そして、記念にラブホテルに行こうとするが混雑していて行けず、後日豪華ホテルに行く二人の場面で映画は終わる。
単調な映像を作らず、ある意味リアリティに欠ける映像を散りばめながら甘酸っぱい青春ラブストーリーを描いていく手腕がとにかく楽しい一本。久しぶりに森田芳光ワールドに酔ってしまいました。
「花のあすか組!」
これはなかなかの佳作。何と言っても舞台美術が素晴らしく、無国籍な雑多な街、建物内の設定、ロケーションに引き込まれる。監督は崔洋一。
199×年、SHINKABUKITYO。ドラッグと汚職、暴力が蔓延る町。この日も赤玉と言われるドラッグの取引で、トキ達売人とKら悪徳警官とのやりとりと取引の場面から映画は始まる。そこへ殴り込んできたのがあすかとミコという二人の少女ギャング。大暴れした挙句、警官達の金やトキらのドラッグを奪って逃走する。
このストリートを仕切るHIBARIらは子分のヨーコの妹であるミコと友人のあすかを捕まえるべく動き始める。映画は彼らの闘争劇を無国籍な美術セットなのかロケーションなのか見事な空間で展開していく。
やがてヨーコにミコは殺され、トキもKに殺され、あすかもHIBARIに捕まるが、トキの葬儀の場の乗り込んできたチンピラにKも殺され、その騒動の中脱出。ミコの仇を取るべくあすかはヨーコと対決し見事倒す。こうして映画は終わる。
キレのあるアクションと、インパクトのある台詞の応酬のテンポが素晴らしい上に、美術が見事で映画としての広がりと無国籍の面白さを堪能できます。なかなかの佳作でした。
「怒りの日」
なるほど名作。映画というのはこうやって作るもんだと言わんばかりの計算され尽くされたフィルム編集とそこから生み出す映像のリズム、その演出手腕が見事な作品でした。特にクライマックスの細かいカットの切り返しと畳み掛けていくような終盤への流れは絶品と呼べる映画でした。監督はカール・テオドア・ドライヤー。
「怒りの日」の讃美歌でしょうか、その歌詞が延々と語られる場面、カットが変わると一人の女性が魔女として認められたという文面、続いて二人の老婆のシーンから、外で何やら騒がしい声、一人が出ていき残された老婆は慌ただしく部屋を出ていく。このシーンがワンカットで描かれる。そこへ男達が入ってくる。どうやら魔女とされたのは今出ていった老婆らしい。
場面が変わると牧師館で、牧師アプサロンの母がアプサロンの妻アンネを非難する場面から、アプサロンの前妻の息子マーチンが戻ってくる物語へ進む。アンネの義母とアンネは仲が悪いようだが、マーチンが帰ってくることで良き日となったようだ。しかし、この牧師館に先ほどの老婆が逃げ込んでくる。そして一人だったアンネに匿ってくれと頼む。かつて、アンネの母も魔女として告発されたが、アプサロンが守ったというのだ。そしてその真実を話さないから助けてくれと老婆は言う。アンネは2階に逃すがまもなくして男達が探しにきて老婆は捕まってしまう。
老婆は再三アプサロンに助けてくれるように頼むがアプサロンは受け入れず、やがて老婆は火刑に処せられることになる。一方、アンネは歳の近いマーチンと程なく恋仲になってしまう。老婆は死の直前までアプサロンに命乞いをするがアプサロンは受け入れず、老婆は恨み言を叫んで死んでいく。
しばらくして、アプサロンの牧師仲間の一人が病に倒れ、アプサロンはその死の床へ向かう。一方マーチンとアンネの密会も数を重ね二人の仲はますます深くなっていくが、罪を感じたマーチンは旅に出る決心をする。アプサロンの牧師仲間は程なく死んでしまい、夜遅くアプサロンは自宅へ帰ることになるが、外は激しい風が吹き荒れる。アンネとマーチンはアプサロンの帰りを待つが、マーチンを愛するアンネはアプサロンの死を望んでしまう。アプサロンは無事自宅に戻ってきたが、アンネは自分とマーチンの関係を告白、アプサロンは問いただすためにマーチンのところへ行こうとして突然死んでしまう。
アプサロンの葬儀の場、とうとうアプサロンの母は、アプサロンが死んだのはアンネの所業によるものだと告発、マーチンもそのことを否定せず、絶望したアンネは涙ながらにアプサロンの遺体の傍で、自分が死を望んだのだと叫んで映画は終わっていく。
混沌とした中世ノルウェーの時代を背景にした複雑な人間関係のドラマを宗教観をモチーフに描いた見事な作品で、長回しと細かい編集を駆使した映像リズムの見事さのみならず、クローズアップとロングを交えた絵作りの美しさも目を見張るものがあります。傑作と呼べる見事な一本でした。