くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「うん、何?」(うんなん)

うん、何?

「RAILWAYS」の錦織良成監督が、「RAILWAYS」を監督する前にとった作品で、大阪で公開していなかった一本である。なぜか突然、二週間限定でなんばパークスシネマで公開ということだったので見に行った。
すばらしい映画だった。心地よい時間の流れがスクリーンからあふれてくる。このまま、もっと映画が続いてもいいと思えるような居心地の良さ、癒される気持ち。すばらしい作品でした。

映画が始まると、なぜか英語(ローマ字)でタイトルがでます。そして八又のオロチの物語であるという副題がついているのに気がつきます。
いきなり俯瞰でヘリコプターから青々した田園地帯が写り、10年ほど前にこの映画の舞台の雲南で銅鐸が発見されたテレビ放送、それをじっとみるおばあさん、そして主人公の子供時代、おじいさんに連れられて、遺跡をみるために並んでいる姿が映ります。

そしていきなり太鼓の激しい音楽が流れ、そのテンポに乗って銅鐸や銅剣、銅鏡などの図面が縦横に移されてタイトルが始まります。このリズムがわくわくさせ手、一気に作品へ引き込みます。
そして、太鼓の練習をする少女たちの躍動感あるショット、それを横切る自転車に乗った高校生、これが主人公鉄郎です。その自転車はぐんぐん走っていく。背景に美しい桜の景色。季節は春。

こうして始まるこの映画、のどかな島根の片田舎雲南の町の高校生たちの物語を中心に、田舎の町の人たちの自分の町を愛する心根やどこか懐かしい人間同士のつながり、地元民たちの祭りがとんとんと物語を紡いでいくのです。そして、所々に見せる雲南のさりげない景色が何とも美しく、名所であるかのように引き込まれていくカメラが見事です。

ストーリーの中心は幼なじみの徹郎と多賀子のお互い片思いの切ないラブストーリーなのですが、周りではやし立てる同級生たち、さらに、村が過疎化していくのを嘆く大人たち、さりげなく学校のクラブ運営さえも危うくなりつつある田舎の高校の姿などを見事に挿入し、ゆっくりとした時間の中に、どこかで経験した懐かしい思い出を胸に呼び覚まされていきます。

「RAILWAYS」では電車でしたが、多用された、遠景で真横に一直線に伸びる道のシーンなど横に広がるショット、ラジオ体操の音楽をバックにさーっと走り抜けてくる鉄郎の自転車のすがすがしさ、雲のシーンをインサートすることで見せる季節の移り変わりなど、爽快感が自然とわき上がるような画面が次々と映し出されます。

前半の見せ場である七夕のシーンがそうした自然の景色の続く中で色とりどりのにぎやかさでスパイスを作り出し、抑揚を生み出した後、後半部のクライマックスへ引き込んでいく神社のエピソードなどをさりげなく挟み込んでいきます。さらに陸上のクラブの選手である鉄郎と水泳部である多賀子という設定も自然にストーリーの中に埋めている脚本も見事。

毎朝、入院する母に届ける牛乳、そこでもう一人おばあさんにも届けるというさりげなさ、多賀子の兄嫁の出産シーンで、夫が病室の外で歓声を上げて喜ぶ声が病室の中の妻に聞こえて、妻が幸せそうに笑うショットがすばらしかった。
命の美しさ、時の流れのすばらしさがどのシーン、どの場面でもあふれていて、このまま、この村の中で一緒に過ごしたいという気持ちにさえさせてくれます。

そして母の死、その後、神社の石を動かして土砂降りの雨が降るクライマックス。続いて、鉄郎がが多賀子にようやく告白し、同級生たちに冷やかされて自転車で走り去るエンディングは何ともいえない爽快感でした。
本当にいい映画でした。なぜ公開していなかったのか不思議ですが、掘り出し物に出会いました