くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「野良猫」「世にも面白い男の一生 桂春団治」

野良猫

「野良猫」
大阪天王寺界隈を中心に、売春禁止法施行間もない頃の下町を舞台に描いた、人情喜劇である。
汽車の中のシーンから始まる。乙羽信子扮する君江、そして、森繁久彌扮する兵太郎が乗っている。

汽車が駅について、君江は天王寺の友達のところへ。そこで友達の夫と体をあわせたことから追い出され、食堂では妙な男に引っかかり、次々とシーンが積み重ねられて、主人公兵太郎と巡り会う。
兵太郎はかつて君江が飛田で女郎していたときのとうさんだった。

こうして次々とエピソードが語られていき、そこに今や落ちぶれた兵太郎の自堕落な生活と、その街に住むそのヒグラシの人々との関わりをつづっていく物語は、まさにプログラムピクチャー的な軽いコメディである。これといって取り立てるほどの演出もなければ、目を見張るショットもないが、時代を見事に映し出したセットの迫力は黒澤明の「酔いどれ天使」のごとし。

そこに展開する巧妙な会話の応酬、ゲスト出演するミヤコ蝶々ダイマルラケットなどのテンポの良い寸劇的な漫才が小気味よいリズムを作り出す様はまさに映画全盛期のムードを見事に伝えてくれます。

ラストの、電車に飛び込もうとする下りは少々くどいくらいですが、それが笑いを生み、そして浪花節的なラストシーンへつなぐ木村恵吾監督の演出のスタイルなのでしょう。映画が娯楽の王様であった頃の息吹を感じさせる作品でした。


「世にも面白い男の一生 桂春団治
もう一本は同じく木村恵吾監督作品で、稀代の噺家桂春団治の半生を関わった三人の女の視点から描いた芸道物である。

舞台は法善寺横町が目の前にある難波、カメラはロングショットで法善寺を縫うように写しながら、とある料理屋へたどり着く。そこでは酒と女に明け暮れる落語家桂春団治は今日も飲んだくれ、金もないところへ、手当たり次第に女にちょっかいを出している。

そんな春団治を慕う料理屋のおたま(淡島千景)は飲んだくれた春団治を家に泊めたところから急速に仲が深まり、所帯を持つ。ここからが物語の始まりである。

所帯を持つも酒と女の癖の直らない春団治は、芸道こそ日に日に磨きをかけて出世していく物の、全く金が残らない。その上後家に手を出してほとんど家にも帰らない始末。そんな破天荒な芸人の姿を森繁久彌が絶妙の話術と間で演じていく様は見事と言うほかない。

ただ、物語の中心が、春団治を囲む女たちが中心なので、ちょっと上品すぎる淡島千景や京都からきた八千草薫、さらに後家を演じる高峯美枝子らがすっきりしすぎているためか、非常に上品な画面になっているように見える。
とはいえ、法善寺を中心とする町並みのセットが素晴らしく、そこに行き来する大阪南の芸人たちの風情が春団治人間性と相まって古き浪速の姿が美しく再現されているのは特筆である。

この作品も木村恵吾監督作品ゆえか、クライマックスの臨終シーンにあの世から車引きが迎えにきたり、そこで行くの行かないのと繰り返されるシーンの展開は「野良猫」同様、しつこい。
しかし、この笑いの連続が、観客にはたまらないおもしろさであり、この日本的なコメディタッチがこの作品の味と言えば味である。

いずれにせよ「野良猫」同様、こうした娯楽映画にさえもそれなりの質の高さが伺える映画黄金期の姿のすばらしさを実感できる一本でありました