くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ハロルドとモード」「バード★シット」

ハロルドとモード

ハロルドとモード少年は虹を渡る」
ファンタジックなラブストーリーです。熱狂的なファンがいるというハル・アシュビー監督の名作をみてきました。

タイトルが始まるとバック映像に、なにやら青年らしい人物の下半身。ゆっくりと歩いてきてピアノの近くへきて、そのいすを引いて上に乗ります。そして、とんといすを蹴って、首をつったイメージのショット。カメラが引くと首をくくってぶら下がる主人公ハロルドの姿。そこへお母さんらしき人が入ってきて彼を見つけますが、なんと平然と電話をしている。??と思っていると、当のハロルドがよだれを垂らしながら苦しむふりをする。つまり生きている。

裕福な家庭に育ちながら毎日の生きる意味を見つけられず、自殺をするパフォーマンスを繰り広げるハロルドがこの映画の主人公。今では母も取り立てることもなくさりげなくいなしてしまいます。
車といえば霊柩車を乗り回し、他人の葬式に出るのが趣味のようなハロルド。

そんなハロルドがいつものように埋葬の場所でたたずんでいると、誰かが「シュッ」っと呼ぶ声がする。みるとお茶目な雰囲気の老婆。彼女も埋葬式に遊びにきていたのだ。

他人の車を盗んでは自由奔放に生きることを楽しむこの老婆は名前をモード。すでに79歳である。
こうして知り合ったハロルドとモードは急速に仲がよくなり、次々と車を盗んだり警察を煙に巻いたりとやりたい放題の毎日を送るようになります。そんな展開の合間に軽快な音楽と歌が流れ、コミカルに進む物語は本当にリズミカルそのもの。

一方のハロルドの母は次々と見合いの相手をハロルドに紹介しますが、うまく行くはずもなく、ハロルドの悪趣味な自殺パフォーマンスなどに驚いて退散してしまいます。このショットのつなぎが本当にコミカルで、やってくる見合い相手の女の子もどこかコケティッシュでユニークなのも楽しい。

一方どんどんハロルドとモードの仲は深まっていき、そして一夜をともに。翌朝、意を決したハロルドはモードと結婚を決意します。
その夜、モードに正式にプロポーズしたハロルドにモードは「最高の気分でお別れができる」と答えます。
彼女は自殺を決意し一時間前に薬を飲んでいたのです。
大慌てで病院へつれていくハロルドですが、時すでに遅く彼女は亡くなってしまいます。
狂ったように車を走らせたハロルドはそのまま崖下へ。と思い気や落ちたのは車だけ。モードにいきることのすばらしさを教えられ、やっと毎日に生き甲斐を見つけたハロルドはモードにもらったパンジョーを引く姿がそこにありました。

モダンな曲が全編を彩り、次々と展開するコミカルでおしゃれなシーンがちりばめられ、19歳のハロルドと79歳のモードのさわやかすぎる爽快なラブストーリーはラストシーンで生への賛歌を歌ってエンディングを迎える。本当に良い映画でした。ファンがいるのも納得しますね。


バード★シット
ロバート・アルトマン監督の幻の未公開作品。とにかく社会風刺が満載のちょっとブラックなアルトマンらしいコメディ絶好調の物語でした。

映画が始まると一人の鳥博士らしき人物の講義の様子。このシーンが時折挿入されて物語が展開していきます。
人間を鳥にたとえ、おごり高ぶった人間の愚かさを笑い飛ばしたアイロニーあふれる解説が語られるファーストシーンはどぎまぎしながらも不思議な世界へ誘われていきます。

博士の講釈の流れからアストロドームが映され、その中でアメリカ国家を歌うへたくそな歌手が楽団と練習をするシーンで始まります。
しかし最初の練習が今一つで、そこへタイトルもかぶるのですが歌手の意向でやり直し。照明をつけてもう一度歌うシーンへ。そして正式にタイトルが再度映し出されます。この辺のお遊びはアルトマンならではですね。
さて、主人公ブルースターアストロドームの地下で自力で空を飛ぶための羽の制作を行っています。
彼をサポートするのが美しい女天使、食料を運んでくる女。おりから謎の連続殺人が起こりそこには必ず鳥の糞が落とされている。

ブルースターは老人ホームをたくさん経営する妙な車いすの老人の運転手をしていましたが、その老人が連続殺人の犠牲になります。
シュールなイメージショットも次々と挿入され、平和を訴えるような音楽も時々流れます。

こうして、何となくカーニバルのような物語が次々と展開していって、間に鳥の糞に関わる連続殺人が続く。犯人を追いつめる警察の行動もどこか皮肉めいたコミカルな演出がなされています。

そして、シェリー・デュバル扮するアストロドームの案内人とブルースターが出会ったところから物語はクライマックスへ。それまで守護天使のようによりそっていた女天使はあの女は死に神だと告げてブルースターのもとを去り、ブルースターは殺人犯として警察に追いつめられる。アストロドームで自分の作った羽で舞い上がるブルースター。しかし力つきて地面へ落下してしまいます。

そこへ観客の拍手。袖から次々とサーカスの出し物のような人たちが登場。彼らはさっきまで物語に出演していた登場人物たちです。つまり、いままでがすべてこのショーだったということです。
しかし、中央で横たわり死んだようになっているブルースターはそのまま。

痛烈な社会風刺、まさに70年代の時代性を的確に映し出した内容と映像のオリジナリティはまさにローバート・アルトマンでした。