くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「江分利満氏の優雅な生活」

江分利満氏の優雅な生活

ストップモーション、アニメーション、スローモーション、などトリック撮影を駆使し、大胆なカットの連続と、びっくりするような構図を繰り返して岡本喜八監督らしい喜八節炸裂の傑作コメディである。

映画が始まると、数コマのフィルムを次々とつないでゴルフボールのヒットするショット、バトミントンで遊ぶ昼休みの会社員、なぜかゴーゴーを楽しくおどったり、ダンスをするショット、そして挿入される高度経済成長の象徴のような工事現場のカット、とめまぐるしいシーンでこの映画が幕を開けます。

そしてそんな昼休みの会社の屋上でぼんやりとグチを独り言している主人公江分利満氏(小林桂樹)の姿へ。
こうして尋常ではない映像であるも、高度経済成長まっただ中のとあるサラリーマンの物語が始まるのです。

彼の家庭の様子、会社の様子などが一通り語られた後、勤務を終えて彼は夜の街で梯子をする。ふと出たところで男女に誘われ、訳も分からずついていくと、実は彼らは編集者で江分利満氏に小説を依頼しに翌日やってくるのです。

訳も分からず、それを引き受けた江分利満氏がなにを書こうかと、自分のこれまでの人生を妻に語りながら小説に仕上げていくのが映画の本編となります。
戦前生まれで、その後第二次大戦のまっただ中を生きてきて、父の事業の浮き沈みやら、隣人の話、妻との結婚、子供の出産、母の死と軽快な語り口と、アニメや特撮をふんだんに盛り込んだ奇妙な映像に引き込まれていきます。

大胆な演出で、コミカルでありながら独特の語り口はいつの間にかこの主人公の今の生活への風刺が絡んでくるように見えるから不思議ですね。
衣服を説明するのに、最初は下着姿で家を出る。そしてズボン、シャツ、と説明が進むとそれにつれて江分利満氏のすがたも次第に整ってくるシーンの楽しさ。新婚当時、江分利満氏の靴と妻の草履だけが会話をするお遊びシーンの秀逸さ。平坦でとっていた画面が突然俯瞰で見下ろしてドキッとされるカッティングの妙味などそのオリジナリティは最高である。

こうして完成した小説はなぜか直木賞候補になり、そしてなんと直木賞を取ってしまう。そして、そのお祝いの席で延々と語る江分利満氏の名演技がまさに小林桂樹の独り舞台である。しかし、正直このクライマックスが延々としていてしんどい。ちょっとしつこすぎるといえなくもないと思う。

そして、一晩語りあかしたあと、画面は冒頭の会社屋上での昼休みのシーンへ。
バトミントンのショット、ゴルフボール、ダンス、ゴーゴー、そして片隅でたたずむ江部利満氏、エンディング。

なんとも、ある意味奇妙な映画である。評価されるのもわかるが、いかんせん、中盤から後半に岡本喜八流の独りよがりに走りすぎた帰来がある。そのためこの終盤がだれる。
前半部の軽快な切れ味が何とも残念なことになるものの、この映画のオリジナリティは唯一無二の傑作と呼べるものだと思います。