くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ここに泉あり」「どっこい生きてる」「砂糖菓子が壊れると

ここに泉あり

「ここに泉あり」
すばらしい。これこそ名作と呼べる一本でした。20数年前にみたことがあるのですが、ほとんど忘れていました。

今井正の演出ももちろんですが水木洋子の脚本が実にすばらしい。
映画が始まって汽車に乗って移動する高崎市の楽団のメンバー。そこへ東京からコンサートマスター早見がやってくるところから物語が始まります。

早見はただの道楽でやっている楽団員のメンバーに厳しいことを言い、大半を首にしてしまう。そしてそのメンバーで最初にいた学校でのシーン。

演奏が終わる。校庭に水たまりがありそこに校舎が写っている。その水たまりの景色に楽団員が写ってこちらに歩いてくる。そして学校を出るとき、一人の少女が岸恵子に野花の花束を渡すシーン。もうすばらしい。この後楽団員はその花をそれぞれ持ってアカペラのように曲を奏で踊り出す。これぞ映画である。

東京管弦楽団との合同演奏会のシーン。曲目はチャイコフスキーのピアノコンチェルトである。指揮をする山田耕作のやや背後にドンとおかれたピアノ。カメラアングルを意識しての配置で、ふつう指揮者の後ろにピアノが置かれるなんてことはないが、まるで真後ろにあるようにさえ見える。ピアノの技術に苦悩する岸恵子の心理を描写する見事なシーンである。

そして、クライマックス。解散板と思われたシーンから数年後、山田耕作と東京管弦楽団のマネージャーがふと高崎市を訪ね、かつての楽団はどうなったかと探す。そして見つけたところではかつて早見が教えた子供たちが若い楽団員となって演奏している。その様子を見ている山田耕作がいつの間に歌指揮をし始める。

やがて、再度東京管弦楽団と合同演奏の機会が訪れ山田耕作の指揮でベートーベンの第九が演奏され、過去の苦しい日々がフラッシュバックされ、大きな真っ白な入道雲を背景に丘を登っていく楽団員のシーンで小林桂樹が振り返ってエンディング。感動である。

しっかりと演出された画面の作り方、それに絶妙に組み入れられる俳優への演技付け、そしてストーリー展開のリズム、名監督ならではの才能で描かれるこの作品のすばらしさはごらんになってこそ、そして心で感じてこそ納得できる一品だと思います。すばらしかった。

「どっこい生きてる」
ネオリアリズムを彷彿とさせる物語とカメラアングルに圧倒、これぞ社会は今井正の真骨頂かといわしめる傑作でした。

鉄橋の遙か彼方から路面電車が走ってくる。一人の男がこちらに走ってくる、やがて次々と日雇いの仕事を求める男たちがかけよってきて、大群衆となり、職安でその日の仕事を手にしようと群がる人々が写されるファーストショットで愕然とする。

主人公の毛利は自宅を立ち退きを迫られ、それでもその日の暮らしが必死のまさに仕事にあぶれた男である。妻は仕方なく子供二人を連れて田舎に帰る。一人になった毛利はたまたま旋盤の仕事を見つけるも最初の給料までの宿代もなく日雇い仲間たちから前借り。しかし調子に乗って酒を飲んで酔っぱらってしまい金を取られてしまう。

翌日旋盤の工場へ行くが雇う話は保護にされる。
そこへ妻と子供が帰ってきて絶望の淵へ。心中を考えた毛利たちは前の晩ごちそうを食べ、最後の楽しみにと遊園地で子供たちを遊ばすが、息子が池に落ちてしまう。子供を救い命に目覚めた毛利は再度雇いの労務者の中にじる姿をとらえて映画が終わる。

群衆で何度もとらえる労働者たちのショット、非情にもその日の仕事の受付を締め切る戸がおちる冷酷なショット、つい飲んだくれて金を取られる毛利の悲哀の人生の姿などリアリティあふれる演出で当時の社会問題を真正面に描いていく今井正の視点は冷酷である。

しかし、ラストの木村功等が暖かく迎えて大勢の人混みに消えるラストシーンに一抹の救いがある。ここが日本映画なのかもしれません。

「砂糖菓子が壊れるとき」
全くチンケな映画である。特集でみていなければまさか今井正の映画だとは気がつかないと思います。主人公の京子が次から次とまるでオムニバスのように男と関わっていっていく。その間に何の関連もなく、完全にマリリン・モンローの生涯を翻案したように物語が進む。

黒いミンクのコートを着た主人公がヌード写真を撮るべくやってくる。コートの下には何もにもつけていなくてコートを脱ぐと全裸、そしてタイトルバック。ドキッとするファーストシーンであるがどこか今井正の色と違うような感覚に囚われる。

あとはもう、次々と男遍歴を繰り返し、ちょっと頭の弱いこの主人公は訳の分からないままに甘えてみたり泣いてみたり、睡眠薬にのめり込んでみたり、全くバカな女の半生のストーリーである。
ただ、ちょっと頭の悪いコケティッシュな主人公を実に見事に若尾文子演じている。さりげないしぐさや台詞回しでいつの間にかこの人物になりきってしまう彼女の演技力は生半可なものではないとうならせられます。

念願の映画賞を受賞した夜に睡眠薬の事故か自殺で死んでしまう。せつなイラストシーンであるが、完全にマリリン・モンローの半生である。これもまた今井正の作品として、本数をみたという感想でした。