くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「冷たい熱帯魚」「君を想って海をゆく」

冷たい熱帯魚

冷たい熱帯魚
昨年「愛のむきだし」で一気に話題の監督になり満島ひかりを一躍時の女優に押し上げた園子温監督作品。「愛のむきだし」を見損ねているので、その演出手腕はいかほどのものかと見に行った。

そして、圧倒される迫力、鬼気迫る映像表現、そしてバイタリティあふれる画面づくりにうならされてしまった。

それは音や音楽の使い方一つにも伺える。登場人物たちの意識が高揚していくところに流れる太鼓のようなリズムの音。まるで観客の心臓の鼓動をスクリーンで感じさせるような不気味さが漂う。さらに、手持ちカメラと大胆な振り回し、時に驚くようなクローズアップ。決して物語を遠ざけて傍観者のように見せない超接近したアングルの数々に、映画が始まったとたん引きつけられてしまう。自主映画の荒々しさがそのまま商業映画として完成されたというイメージの映像はなるほどと納得できる見事さがありました。

ただ、この映画は嫌悪感が残りました。

映画が始まると、筆で殴り書きしたような監督名、そしてこれは実話である旨のテロップが白抜きでど〜〜んと映し出される。背後に一人の女が思いつくままにスーパーで買い物をしてかごに入れている。冷凍食品ばかりを買って帰った女は手早くレンジで暖め、突然、夕食を囲む社本の家族の姿へ。ところがどこかぎこちないところへ娘美津子にボーイフレンドから電話。そのまま飛び出す娘、しばらくして娘が万引きで捕まったという電話、そしてそのスーパーへ行って両親で平謝りしているところへでんでん扮する村田が飛び込んでその豪快きわまるしゃべりですべてを丸く納めてしまう。

この村田も熱帯魚の大きな店を構えていて、社本の娘を雇うことにし、両親を安心させてすべての設定が完了してタイトルがど〜んとでる。これこそ園子温監督のスタイルなのだろうと思う。

物語はこの村田という男、じつは詐欺紛いに金を巻き上げ、そのまま殺して、バラバラにして死体を処分することで生きているいわば猟奇犯罪者。
あれよあれよという間に片棒をかつがされた社本とその周りの人物たちの話である。

森の奥の村田の山小屋で死体をバラバラにする下りもさることながら、実にリアルにスプラッター映画のごとく展開するシーンはやはりグロテスクである。そして、そんな行動を繰り返すでんでんの演技が圧倒的に迫力があり、一方のおどおどする吹越徹の演技が対照的でこれが見事に掛け合っていくからすばらしい。

さらに周りの女たちがわけありげで怪しい。社本の娘の美津子さえもどこか不気味なところがある。そんな人物たちのやりとりで繰り返される殺人はまさに常軌を逸した世界と呼ばざるを得ない。

村田の相棒のやくざまがいの男筒井も最後には殺され、村田の妻とばらばらにする段階でぶちぎれてしまった社本が警察へ連絡の後、誰もかれも殺してしまい、娘だけ残して自分も自殺する。このクライマックスはこの上なくグロとスプラッターこ混在するまさに混泥した至上の世界である。

目を背ける人も当然でてくる。それほどに容赦なく血や肉片が飛び散る。

そして、一人残された娘が父親を蹴りながらせいせいしたかのように笑い飛ばしののしるエンディングはグロテスクの極みかもしれない。

これが嫌悪感でなくて何だろう。もちろん、映像演出や演技演出、カメラの使い方、映像のリズム感などどれも非常に優れている。おそらく奇才と呼べるほどの独創的な映画作家であると思う。しかし、映画館に足を運んで嫌悪感を抱いてでてくるのは良くない。

訴えたいテーマがあるのなら、それを伝えながら、ちゃんと心に残して映画館をでてもらうべきである。でなければただの独りよがりの卓越した力量のある映画監督でしかないと思う。

話題作「愛のむきだし」も見ていないのにどうこういいたくないが園子温監督の次の作品を注目してみたいと思う。同じ感覚なら、私にとっては嫌いな監督となるかもしれません。


「君を想って海をゆく」
イラクからフランスへ不法入国し、さらにイギリスに渡ろうとするクルド人の青年ビラルと彼と心の交流を持ったかつての水泳の金メダリストシモンの物語である。

静かに淡々と進む物語であり、その落ち着いた展開の中に劇的なシーンも奇抜なショットもない。ただひたすらこのシモンという男の物語が描かれていくので、終盤に進むにつれてちょっとしんどかった。

クルド人難民の問題をシリアスに訴えたいのか、シモンと離婚間近になる妻マリオンとの夫婦の愛の物語なのか、と考えてみれば、つまりビラルがイギリスに住む恋人ミナに会うためにドーバー海峡を泳いでわたろうとする展開と、それを違法と知りながら応援しようとするシモンの姿を見ていると、やはり物語のテーマはこのシモンとマリオン、さらに男と女の愛の物語を描こうとしたのだろう。

物語はトラックに乗ってイギリスへ不法入国しようとするビラルたちの姿から始まる。しかし、ふとした失敗でフランスへ連れ戻され、まだ初犯だったビラルは釈放される。そして、プールで泳いでいるところでシモンと知り合い、ビラルはドーバー海峡を泳いでわたるために彼のレッスンを受けることに。

たまたま、難民への施しのボランティアをしているシモンの妻マリオンとの離婚問題に悩んでいた彼はイギリスの恋人に会う為に命を懸けているビラルの姿に打たれて彼を応援し始める。

ところが、ビラルはドーバーを泳ぎながら、イギリスの陸地が見えたところで沿岸警備に見つかり、逃げているうちに力つきておぼれてしまう。
死体となってシモンの元に戻ってきたビラルを見て、シモンはビラルの恋人に会うためにロンドンへ。

しかし、10日後に別の人との結婚を控えたミナは涙を浮かべて別れていく。
そして、ロンドンにいるシモンの元にマリオンから電話。
「帰ってきて・・」という言葉に「もちろん」と答えるシモンの姿で映画は終わる。

つまり、シモンとマリオンの愛の物語の行く末と結末が、クルド人難民であるビラルのひたむきな恋の行方を通じて描かれていくピュアな大人のラブストーリーなのである。

どこに難点があるわけでもない良質の一本であったと想いますが、どうも私には苦手なジャンルであったと想います。