くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「黒蜥蜴(’62)」「黒蜥蜴(’68)」

黒蜥蜴 京マチ子

「黒蜥蜴」(’62)
京マチ子主演、井上梅次監督作品、しかも脚本は新藤兼人というのだから何ともものすごいスタック、キャストである。
物語は江戸川乱歩原作らしく、どこか伝奇小説のごとき不気味さを持ちながら明智小五郎と怪盗黒蜥蜴の対決という構図をとる。

画面づくりがじつに奇抜で、カラーフィルターや色彩ランプを多用し時にダンスを取り入れたりしながらのミュージカル仕立てのごとく、そして画面の構図にも斜めの技巧なども交え安物のサスペンスドラマのごとく仕上げている。
ある意味、遊び心満点のそしてサービス精神満点の古き良きプログラムピクチャーなのである。

物語の展開といいプロットからプロットへのリズム感といい非常にテンポが悪いのは大量生産していた頃の弊害ともいうべき作品の出来映えであるが、前述したごとく、一流のスタッフ、キャストをそろえた珍品というイメージが満載で、まさに映画の黄金時代が崩れていく様をみるような寂しささえ感じられます。

正直、クライマックスに至ると眠くなってきたのは体調の故か作品の故かというところです。江戸川乱歩の不気味なイメージも再現されておらず、明智小五郎にしても成金の宝石商にしてもカルト性にかけるのが残念。まぁ、凡作という珍品でしょうね。

「黒蜥蜴」(’68)
丸山(美輪)明宏主演、深作欣二監督作品。
物語は基本的に同じ展開で、細かなせりふもほとんど同じである。ただ、やはり時代の流れであろうか、’62年版よりもシリアスに、そして正当な演出が施されている。もちろん、江戸川乱歩原作の定番というようなサイケデリックなセットは形を変えて描かれている。一方で深作欣二監督らしいシャープさがさえ渡り、さらにカリスマ的な丸山明宏の存在感がこの作品を一種独特の怪作に仕上げている。

そして、おそらく原作の本来の味であろう明智小五郎に恋心を抱いてしまった怪盗黒蜥蜴の揺れ動く女心がストレートに描かれた演出になっているし、女心というポイントに丸山明宏が絡むことでオリジナリティあふれる不思議な作品に仕上がったのは成功といえば大成功なのだ。

特別出演に三島由紀夫が登場、なんとクライマックスの人間人形に扮して丸山明宏と接吻するというものすごいシーンさえ用意されている。この趣向が何ともいえない拍手物である。

今回の作品では誘拐される娘にほとんど焦点が置かれていない。ただ、冒頭の大阪での誘拐シーンのサスペンスフルな展開は’62年版よりシャープである。

そして、東京に移ってからは完全に明智と黒蜥蜴の情念の物語であり、見え隠れする黒蜥蜴の色香が不気味なほどに作品を盛り上げてくる。
ラストシーンでは自殺した黒蜥蜴に寄り添う明智小五郎の視線がなんとも妖艶。これぞ、ある意味での怪作であろう。

考えようによっては’62年版同様サスペンス劇場のたぐいに近いのであるが、それは、後のサスペンス劇場やスペシャルドラマで描かれた「黒蜥蜴」がどれもこの二作品のサイケデリックな演出を踏襲しているためではないかと思えるのである。その意味で画期的な二本であるように思える。