くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「エリザのために」

kurawan2017-02-23

「エリザのために」
どうもこの監督の話は、自分の感覚にあっていなくて、時に物語の一部が欠落してしまう。というよりルーマニアという国の実情が理解できていないからでしょうか。しかし全体の作品の仕上がりの見事さは納得させられるからすごいなと思うのです。監督はクリスティアン・ムンジウです。

主人公で医師のロメオの家に石が投げ入れられるところから映画が始まる。外に出ても、犯人はわからない。彼には愛人がいてそのため妻とも冷めている。まずこの街の荒んだ状況がこの石で演出される。

ある日、娘のエリザを学校へ送って行ったのだが、途中で愛人のところへ寄りたくて学校まで送らず下ろしてしまった。ところが、その後暴漢に襲われたと連絡が来る。

そのショックで留学の最終試験に影響を受けるほどになってしまう。そんな娘のためにロメオはあらゆるコネを使って温情を与えてもらおうと奔走するが、それがかえって娘や自分の周りの環境までギクシャクして来るのである。

普通に試験にコネが通用するという国の実情や日中普通に強姦事件が起こったり、防犯カメラでも、それを見て見ぬ振りする人々が写っているのが不気味なほどである。

ロメオはそれなりの腕のある医師のようで、副市長の治療を請け負うことが娘の試験への温情の対価として描かれている。

全体に貫かれた静かなサスペンス調の演出が素晴らしい一本で、後半に入って車のフロントガラスに石が投げられたり、誰かにつけられているというミステリアスな展開もこの国の実情を叙述に描写されている様が見事。。

ラストは、父のコネに関係なく実力で試験を終えた娘の晴れやかな表情で微かな希望が見えて終わる。試験の結果はわからないものの、このラストの処理が実にうまい。

色々と知識が必要な作品ですが、映画としての仕上がりの良さは大したものだと思います。