くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「女殺し油地獄」「モールス」

女殺し油地獄

女殺し油地獄
かつて五社英雄監督版を見たことがあるが、それほどの印象はなかった。今回、堀川弘通監督版をみましたが、いかに近松門左衞門の原作が優れているかを実感した思いがしました。

特にクライマックス、河内屋与兵衛が世話になった筋向かいの豊島屋の女房お吉を殺すあたりの畳みかけるようなプロットの組立展開が見事。

与兵衛が金の工面に困ってお吉のところへくる。その直後、勘当したとはいえ心配な河内屋の主人が豊島屋へやってくる。そして与兵衛がきたら渡してくれと金を預ける。と、時を経ずして河内屋の女房さわがやってきてこれもまた金をあずける。

どうしようもない親心が身にしみるシーン。それに続く与兵衛の改心の言葉、そして、これを機会にまっとうになるといってお吉に金を頼む。このシーンの直前に、豊島屋の主人が掛け金を回収してきて大金が家にしまってあるというシーンがある。

ところが、ふと疑いの心がでたお吉は与兵衛に問いただし、それがきっかけで、与兵衛はお吉を殺してしまう。油まみれに逃げるお吉のシーンがこの物語の題名になっている。

そしてエンディング。市中引き回される与兵衛の姿。映画の冒頭で見せたシーンに戻る。

脚本は橋本忍、カメラは中井朝一、クライマックスの盛り上がってくるサスペンスフルな展開は橋本忍の脚本のなせる技でしょう。さらに、与兵衛がきている着物の色彩が実に鮮やかなのは意図的な色彩演出だと思われます。

全体にびっくりするほどの映像が見られるわけではないものの、一見に値する佳作であったと思います。

「モールス」
ご存じ「僕のエリ200歳の少女」のハリウッドリメイク版、しかも主演の少女には注目のクロエ・グレース・モレッツとくれば期待しないわけにはいきません。ただ、心配なのは監督があの「クローバーフィールド」のマット・リーヴスである点でした。

しかし、映画が始まるとその不安は消えてしまいました。非常にシャープでスタイリッシュな映像。オリジナル版を意識したかのような美しいライティングによる光の演出。そして、舞台を寒々とした気候のニューメキシコ州エルアラモスにとったことで、森林と雪景色を再現したうっとりとしたピュアなラブストーリーに仕上がっていました。

今回、映画の原題は「LET ME IN」(私を招き入れて)となっているように、オリジナル版とは別の作品ととらえてみた方がいいですね。
基本的なストーリー展開やそれぞれのショットはオリジナル版が見え隠れしますが、それはおそらく原作にあるシーンなのだろうと考えれば、今回、マット・リーヴスのオリジナル映画と見るだけに十分な秀作でした。

映画が始まると、時は1986年とでます。雪景色の森林の合間を救急車が走っている。中には硫酸で顔を焼いた患者が乗っていて、やがて病院へ。そこで刑事が電話をしている。「娘がいたって?」
と、次の瞬間、患者は窓から飛び降りてしまう。

そして場面は二週間前、主人公の少年オーウェンの家。中庭にはジャングルジムがあり、雪がシンシンと降っている。こうしてこの甘酸っぱくも悲しい、そしてどこか恐ろしいモダンホラーが幕を開ける。

オリジナル版でオブラートに包まれ、観客の想像にゆだねる部分を今回はある程度具体的に描写している場面があります。
アヴィの父(実際は違いますが)とアヴィが写っている写真をオーウェンが見つける。その父の姿は幼いアヴィと同じ年の頃の少年の姿、この写真を写すことで実はアヴィとその男がかつての友人だったことが明らかになる。

さらにオーウェンが血の契りをしようとして指を切ったとtん、アヴィがその血をなめてしまう。形相の変わった彼女の顔を真正面にとらえるショットはかなりグロテスクである。

基本的に、オリジナル版では控えめであまり表面に出さなかったアヴィ(オリジナルではエリ)がヴァンパイアに変身したときの顔のアップや血だらけになるショットがやや多めである。しかし、作品の質を落とすものではなく、終始、光の美しいライティング演出でスタイリッシュに描いていく良質のホラーであるという描き方から逸脱しないのがいいですね。

オリジナル版を知るものにとってはどうしてもオリジナル版とかぶらざるを得ませんが、今回のハリウッド版も決して凡作ではなく、ストレートに感動して心に残るホラー映画の秀作だったと思います。クロエ・グレース・モレッツがほんとうにいいですね。

最後に、今回の作品ではオリジナル版でぼかしの入ったエリ(アヴィ)が実は女の子ではなく、切り落とした男の子であったというショットは完全に削除していました。中途半端に入れるなら割愛した方がいいという判断でしょうね。これはこれで良かったと思います。