くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「サンセット大通り」「インシディアス」

サンセット大通り

サンセット大通り
久しぶりに見直したビリー・ワイルダー監督の代表作の一本。本当にこの監督の底知れない才能に感服してしまいます。

軽快に繰り返されるせりふの応酬と圧倒的な画面づくりによるストーリーテリングのすばらしさがこの監督の特長でもありますが、この作品については徹底的にシリアスなミステリーに終始します。会話の中に片鱗もユーモアのあるせりふがない。圧倒的に不気味なほどの演出が施され、いったん、画面を見始めたらひとときも目をそらせられない圧倒感が漂うのです。

売れない脚本家の主人公ジョー・ギリス(ウィリアム・ホールデン)がプールに浮かぶシーンに始まり、この主人公の死者の言葉によってストーリーが6ヶ月前にさかのぼって語られていく。

車のローンさえ払えない売れない脚本家のジョー・ギリス。取り立て屋から逃げ回るうちにサンセット大通りのとある屋敷に迷い込んでしまう。雑草に覆われた巨大な豪邸に住むのはサイレント時代の大女優ノーマ・デズモンド(グロリア・スワンソン)。寂れた屋敷ではあるものの莫大な資産をもち、不気味な執事マックス(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)と二人きりで暮らしている。

一夜のはずがいつの間にかノーマに取り込まれたようにこの屋敷に住まいするようになるジョーの物語がこうして始まります。まさにダフネ・デュ・モーリアのミステリー小説のような展開は見るものを現実世界から別世界へ引き込んでしまいます。

かつての栄光を妄想のように繰り返すノーマの鬼気迫る演技が不気味なほどに壮麗な豪邸の中で時に取り残された幻想の世界を生み出し、逃げなければと思いながら逃れられないジョーの迷いがさらに迷宮の中に私たちを誘っていく。

自分を求めるセシル・B・デミル監督の幻影の中、若き女性ベティへの嫉妬からジョーを撃ち殺してしまったノーマは、かつて自分を見いだし、最初の夫となったものの今や執事として彼女に寄り添っていたマックスの「スタート!」の声の中、マスコミのニュースカメラの前で王女を演じるノーマの迫力。これぞ映画の醍醐味である。そして、そのアップに被さるENDの文字こそが古き良き時代の映画産業への終演を語るものだろう。

シリアスな演出を徹底したビリー・ワイルダーの意図は変わりゆく映画産業への警告だったのか、それとも自嘲なのか、底知れないほどの迫力が画面からにじみ出てくる様はこれこそが映画史に残る傑作といわしめる。

インシディアス
あの傑作「ソウ」の第一作を作り出したリー・ワネルジェームズ・ワンが臨んだホラー作品。最近のこの手のホラーにおきまりの血が飛び散ったり、顔が崩れた怪物が登場したりというようなありきたりのシーンは全くない。ひたすらショッキングな演出と「あっと」言わせるカットの連続でどんどん観客を恐怖の世界に引き込んでくれる。そのストレートな恐怖が非常に好感な一本でした。

映画が始まると大きな吊りライトからベッドの上の少年。カメラが引いて暗闇の部屋をどんどん動いていく。そしてタイトル、クレジットがしつこいほど流れる。

場面が変わるとある家族が一軒の家に引っ越してくる。教師をしているジョシュと言う夫、作曲をしている妻ルネ、二人の息子とやたら泣く妹。

ところが物語はいきなりやってくる。屋根裏に上った長男ダルトンが突然昏睡状態に。そして、妻は時折家の中でなにやら走り回ったり不気味な男の幻想を見始める。面倒な前置きや人物の設定の説明もなくどんどん本題に入っていくストーリー構成が心地よい。

妻の説得で別の家に引っ越したものの、なぜか妙な人物や幻想が消えない。そこで妻は母の薦めでエリーゼという霊媒師のような女性を呼ぶ。助手でついてきた二人の男が何ともコミカルで、潜水道具のような滑稽な器具や古くさいカメラなどで怪現象に臨む展開が一見爆笑ものなのだが、そんなことはお構いなくどんどん物語が進むというスピーディな展開もまたテンポがいい。

実は昏睡状態の息子はあの世へ幽体離脱していて、かえってこれないのだという。そして、抜け殻の肉体をねらって悪魔が近づいている。父親にも幽体離脱の能力があるから息子を助けにいくために離脱せよと言う。

こうして父親も幽体離脱して助けにいき、無事戻ってきて、ハッピーエンドかと思いきや、父親ジョシュの姿をカメラに撮ろうとストロボを炊いたエリーズにジョシュがつかみかかり絞め殺してしまう。果たしてカメラになにが写ったのか。妻が駆けつけてカメラの画像を見ると、ジョシュの姿は一瞬で悪魔の男の姿に。そして背後にはジョシュが・・・と映画は終わる。

幼い頃、幽体離脱したジョシュはすでに悪魔にとって代われれたまま大人になったのか?それともダルトンを助けにいったときに入れ替われれたのか?というラストシーン。ショッキングなエンディングはこの手のホラーには常道かもしれませんが、おどろおどろしい顔つきの悪魔でもなく、ただ、赤く極彩色の顔立ちの不気味な怪物というイメージや、真っ白な顔の女たちや、蝋人形のような死人などやや普通の風貌の化け物たちが超スピーディなカットと切り返しで現れるシーンの怖いことといったらありません。

これがジェームズ・ワン監督の手腕と言わしめればそうかもしれませんね。その意味でオリジナリティのあるホラー映画として秀作であった気がします