くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「哭声」「マン・ダウン 戦士の約束」

kurawan2017-03-16

「哭声」(コクソン)
ホラーでもあり宗教映画でもありサスペンスでもある。相当凝ったストーリー構成に脱帽してしまう傑作、いや傑作という評価をするには語弊がある。ある意味カルトムービーのような作品でした。監督はナ・ホンジンです。

山深い田舎の村、主人公で地元の巡査であるジョングが、殺人事件が起こったという知らせで現場に向かおうとして布団から起きるところから映画が始まる。急がなくてもいいじゃないの、朝ごはん食べてから行けばという家族の言葉にのんびりご飯を食べ、現場に行ってみると、あまりにも無残な一家惨殺事件。

とはいえ、帰ってみれば妻と体をかわし、それをませた娘ヒョンジにからかわれる。近くの森には不気味な日本人が住んでいて、何やらこの男が犯人ではないかという噂や化け物ではないかという噂が村に広まっている。

ジョングはこの日本人の正体を掴むべく、住んでいる森の小屋にやってくるが、そこで、殺された人々の写真や不気味な儀式の資材が敷き詰められた部屋を見つけてしまい、さらに確信を持って行く。

惨殺事件の犯人は皆身体中に妙な湿疹があり、それを呪術と絡めて考え始める人もいる中、ある日、ジョングの娘ヒョンジが高熱にかかり、いつの間にか体に湿疹が出始め、ジョングらを罵倒するようになる。また、ジョングが殺人現場を見張っていると見知らぬ若い女が近づいてきたりする。

物語は次第に豹変して行くヒョンジの姿に翻弄され、祈祷師を呼んだりするジョングら家族の奮闘と、森の日本人がその呪術の原因だと執拗に攻めるジョングの狂気的な姿が描かれて行くが、物語の常道としてこの日本人は悪人ではないはずだと薄々わかる。

著名な祈祷師を呼び祈祷をするが、ヒョンジは苦しむばかりで、しかも実はこの祈祷師も謎の日本人が悪魔だと見誤ってしまい、クライマックスで、その真実が見えて、愕然とするのだ。しかも、日本人を悪と信じるジョングらが追い詰め、最後の最後、車で轢き殺してしまうのだが、それも真の悪魔の仕業だったのではと後から思う。

展開として謎の女が一番怪しいし、予想通りこの女が悪の根源で、しかも森の日本人もこの村を守るためにやってきた男で、ジョングの連れてきた神父の見習いがこの日本人のところに行くと、実は死んでいなくて、どうやらこの男は救世主であるという流れになる。しかも手には釘の跡があったりしてキリストを暗示させている。

結局ヒョンジは治らず、ジョングは若い女の前で翻弄された挙句、家に戻ってみれば一家惨殺されている。

ジョングのアップで映画は終わるが、ではあの悪の根源の若い女はなんだったのか?救世主である日本人はその後どうするのか、狂ってしまったヒョンジはどうなるのか、余韻だらけに映画は終わる。このラストの神の不在を暗示させるラストがなかなか見せてくれる。

小さな村を舞台にしているが、これは世界を暗示したものであり、そこに神と悪魔、愚かな人間たちがいるという設定なのではないだろうか。

さすがにこのレベルの映画はそう簡単には作れないなと思える一本でした。二時間半近く退屈させないだけでもすごい映画です。


「マン・ダウン 戦士の約束」
一見、またイラク戦争PTSD映画かと思っていたのですが、これがなかなか凝った作りになっていて、引き込まれてしまいました。もちろんテーマはPTSDなのですが、表現に工夫が施されているのが評価できるところですね。監督はシャイア・ラブーフです。

主人公でガブリエルがとある寂れた建物から息子のジョナサンを助け出すシーンから映画が始まる。そして物語はアフガニスタンで上官に呼び出され面接を受けるガブリエルの姿、そして、派遣までの訓練の様子や愛する妻ナタリーとの思い出、息子ジョナサンとの心温まるシーンなどが繰り返してフラッシュバックされ、時折冒頭の救出するシーンが繰り返される。相棒で行動するのはデブンという兵士である。

物語が進むにつれ、アフガニスタンで任務遂行中に建物に突入して民間人を殺してしまった出来事が描かれ、どうやらそのことなどからガブリエルが精神的に不安定になっているのだといわかってくる。

内地に戻った彼の前にはなぜか殺伐とした世界が広がり、一体何が起こったのか、これはSF映画なのかと錯覚されながら展開するが、終盤、実は彼の目に映るものは彼の心の風景だとわかる。

アフガニスタンでの突入の任務で相棒のデブンは死んでしまうが、彼のヘルメットに隠されていたビデオチャットのパスワードをで繋がってみると、ガブリエルの妻ナタリーだった。なんとデブンとナタリーはできていたのである。

様々なことがガブリエルの精神を痛めつけ、戻ってきたものの、被害妄想的に妻と息子は何者かに拉致されたという幻影の中で、自宅からジョナサンを拉致して逃げる。そしてナタリーが警察に出動を依頼し、警察が駆けつけるが、ガブリエルの目にはただジョナサンたちを狙う悪者にしか見えないのだ。

最後は、一瞬戻った正気の瞬間にSWATに狙撃され倒れる。そして、ジョナサンが父親にすがりついて映画が終わる。

結局、PTSDの映画なのであるがあ、現実と幻想を巧みに組み合わせた脚本と演出がなかなかの見応えのある映画に仕上げられている。なるほど見て損のない一本でした。