くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「どてらい男」「河内カルメン」「鬼火(原田芳雄)」

どてらい男

「どてらい男」
機械卸業者山善の一代記でテレビドラマにもなった実在の商売人山下猛造の物語である。
ストーリーはいまさら語るまでもないので映画の作品を単純に楽しむことになった。

山本直純の軽快な音楽とともに映画が始まる。あとは、あれよあれよと主人公の破天荒な行動と、古き大阪の商人の姿が描かれていくが、なんとも演出に品がない。

映像演出が非常にがさつで、大阪商人の理解を間違えているのか、ただ、どたばたと展開する物語とやたらわめくばかりの主人公の姿が目立つばかりで、カメラ演出にしても、ストーリー展開にしても荒いだけである。

単純に娯楽映画だと割り切ればそれはそれでいいのかもしれませんが、最初から最後までいい加減にしろといいたくなってくる。

大阪商人を描いた傑作と見比べてみればその差は歴然で、単に監督の独創的な演出とは思えず、手軽に作った娯楽映画である。まぁ、そう割り切って楽しんだ一本でした。

河内カルメン
大阪を舞台に描く鈴木清順監督の代表作
普通のストーリーの画面の中に突然炎がゆらゆらと燃え上がったり、鏡、光、影が交錯する清順ワールドが所狭しと展開する魅力満載の映画でした。

河内の田舎の娘露子は田舎暮らしを捨てて大阪へでる。持ち前の美貌を武器に次々と男に囲われ利用されながら、たくましく世間を渡り歩いていく様がある意味痛快な展開の作品である。

映画が始まると、口にバラをくわえて颯爽と走ってくる野川由美子のシーンに始まる。
父親も乞食同然で稼ぎもない様子、母親は近くの不動院の坊主と情事を繰り返し、その見返りに金をもらって生活を支えているします。
主人公の露子は近くの工場で働き、そこの社長の息子と恋仲である。ある日、その男とデートの後一人で帰る途中で地元の若者たちに襲われ、それに嫌気がさして大阪へでる決心をする。
露子を襲う相談をする若者二人の掛け合いのような台詞のショットを手前に置きバック彼方に露子の自転車をとらえる構図が実に個性的である。また、大阪へ出る前夜、戸外でお風呂に入るショットで突然雨が降っていて傘をきて画面の右はしにはいるショットや、母親の情事の場面を目にするに当たり障子の向こうがメラメラと陽炎がたつショットもドキッとするほどのムードが生み出されてくる。

大阪へでて、奇妙なキャバレーに勤めたり、モデルを始めてその社長がレズで妙な関係になりかけたり、そこで知り合った芸術家の男の紹介で奇妙な金融会社の社長の囲われもののようになったかと思うとその社長は飛行機事故でなくなり。と、次々と男を渡り歩きながら生きていく。
モデルをするシーンで友人と自分が鏡で交互に写るショットのテクニカルな映像の面白さなど随所にちりばめられた清順ワールドが実に楽しくて次はどんなショットを見せてくれるのかとわくわくしてくる。主演の野川由美子がまだまだみずみずしくてチャーミングなのも見応えあります。

結局田舎へ帰るが、妹と不動院の坊主がまた関係を持っていると知り多岐に落として坊主を殺してしまい、殺した後水瓶に写る滝のショットなど、ぶつけてくるようなカットの繰り返しによる独特のリズム感の妙味はこれぞ鈴木清順映像マジックと呼べる一品である。
そして露子は東京へ出ていくことにする。ラストで東京へ出た露子が口にバラを加えて次の男を物色するかに見られるシーンなど繰り返しの展開もまた実に魅力的。

突然、魚眼レンズの彼方に奇妙な顔が浮かびでたり、テクニカルと呼べるような画面の中の備品をモダン絵画風にアレンジしたりした構図、さらにシュールなショットを随所に挿入する演出など鈴木清順美学を堪能できる一本でした。

「鬼火」
原田芳雄主演のピカレスクロマン。望月六郎監督の傑作である。
全体に静かなトーンで統一された映像と演出が実に心地よい。にもかかわらず、ふつふつとやり場のない主人公国広(原田芳雄)の感情がにじみ出てくる。この映画の独特の色合いがそこにある。

緑の水田地帯の真ん中にある墓地に一人の男がやってきて手を合わす。殺人の刑期が終わり出所してきた主人公の国広である。
弟分である谷川(哀川翔)に誘われるも断り、ゲイの坂田という男の所へ転がり込む。

ある日、谷川と上部組織の明神(奥田瑛二)に誘われたクラブでピアノを弾いている一人の女性麻子(片岡礼子)に惹かれ、そのまま国広は麻子と暮らすようになる。
麻子に殺したい男がいるからピストルを手に入れてほしいと言われたところからこの男の運命が不思議な方向に変わっていく。

純真すぎるほどに美しい麻子に何かを感じた国広は彼女のためにできる限りのことをするが、麻子が言う男藤間を痛めつけたことから、やくざ同士の争いになり、親しくしていた坂田を何者かに殺されて国広は徐々に怒りを思い出していく。

そして、その相手を撃ち殺し警察に捕まるが、実は坂田を殺したのは明神の指図だったと知り、谷川は明神を撃つべく事務所に乗り込んだところで映画が終わる。

坂田がかわいがっていた犬を散歩させる麻子の姿を水田の広がるあぜ道にとらえてエンディングとなるのであるが、抑揚のない淡々とした画面づくりがどこか淡い切なささえもにじみだしてきて、やくざ同士の哀愁と甘酸っぱいプラトニックに近いラブストーリーも入り交じったどこか心に残る秀作でした。