くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「グッド・ハーブ」「人生、ここにあり!」

グッド・ハーブ

「グッド・ハーブ」
メキシコ映画で、予想はしていたが、本当に静かで落ち着いた作品でした。まぁ、悪くいうと退屈だったといえなくもないのですが。

主人公ダリアはシングルマザーで、母のララは有数の植物学者である。息子はまだ幼い。
ダリアの職業は地元のコミュニティラジオのパーソナリティで、まだまだ美しい彼女は行きずりの男性と関係を持ったりと自由に暮らしている。

そんなる日、母のララの様子が変になり、ララは自分で病院へ行って認知症であることを知る。将来を案じたララはダリアに自分のことを頼むと言付けるが、ララの様態は見る見る悪くなっていく。

時折、薬草の書かれた本がアニメ風に動いて、その薬草の説明が挿入されながらストーリーが紡がれていく。そして、美しい色彩の植物の景色やクローズアップで花々が映し出され淡々と物語が進んでいく。

やがてダリアのこともわからなくなり、そのうち言葉さえも失ってしまうララ。混乱の中でララの友人ブランキータの殺された娘の妄想シーンなどが絡んでくると、近年の第三国の作品に共通の独特なシュールな世界もかいま見えてくる。

どうしようもなくつらくなったダリアはある日ララの顔に枕を押しつける。
翌朝、父に母が死んだことをダリアが告げ、映画は終わります。

植物や昆虫などのショットがちりばめられ、大自然の中で余りに現代的な認知症の物語を語るというスタイルは独特のものがありますが、さすがにしんどいです。国柄による人々の描写なども入ってくるのでそのあたりの混乱もなきにしもあらずでしたが、まぁ、私にとっては普通の作品だった気がします。

「人生、ここにあり!」
ミニシアターの映画を丁寧に回っていると時々、ものすごい傑作に出会います。そんな一本に今日出会いました。もう、涙、感動、ささやかな笑い、そして人生の教訓さえも感じさせてくれるすばらしい作品でした。

舞台はイタリアのミラノ。1983年に物語が始まります。
型破りな言動で組織の内部で言い争いになり追い出された熱血漢の組合員ネッロがこの物語の主人公。

映画が始まると機関銃のような台詞の応酬とイタリアらしい小気味よいテンポの音楽に併せて物語がスタートします。そして一気に導入部に突入してタイトル。

勢いで組合を飛び出したネッロは閉鎖になった精神病院の患者たちをとりまとめる組合をまとめることになってしまう。
ところが、薬漬けで無気力な上にわがままが強い患者たちはそれぞれが個性の固まり。そんな彼らを持ち前の迫力で、寝たままの人間はそれなりに、自閉症の人間もまたそのままで役割を与えて、次第に組織の中でネッロは患者たちにそのまんまで生き甲斐を与えていく。この下りが実に鮮やかでコミカルなのにジンとくるのです。

彼らが一つのことに夢中なのに目を付けたネッロは床の組細工の仕事を与えることにする。ところが、普通の組床だけをしていたのがふとしたトラブルから廃材を使った芸術的な組細工を施すことになり、それが一気に彼らの仕事を広げていく。さらに、精神安定と称して与えていた薬を減らすことまで行い、給料のみならず女の世話までする事に広がっていく。

精神的な問題のある人たちをそれぞれ個性的に描くと共に、その個性がもたらす幸運、さらにその幸運からもたらされるふつうの生活、ささやかな欲望へとつながる下りが本当にほほえましい。

どんどん話が大きくなるにも関わらずここがクライマックスかと思わせるとさらにもう一歩先までとどんどんストーリーが展開していく脚本の構成が実に見事。

物語はさらに進んで地下鉄の巨大な床細工の計画まで広がっていきます。次第に野心にとりつかれ始めたネッロの提案に、普通の生活に目覚めた患者たちは反対。そんな折り、仕事先の雇い主の女性と恋に目覚めた一人の患者の青年ジージョは招かれた彼女のホームパーティで友達と一緒に大失態をする。

それがきっかけで、恋人からのつらい言葉を盗み聞きしたジージョは自殺してしまう。そして、患者たちへの視線が変わる展開へ。落ち込むネッロの姿と彼の恋人サラとの諍いへとストーリーは進んでいく。

これでもかと展開が広がるストーリーの深さはさらに先へ進む。何とも結論が見えない見事な深みのある構成にうならせられてしまうのです。

なにもかも元に戻ろうかと展開し、ネッロは精神病院を去り、サラと一緒にファッション業へ。ところが、すでに自立することを知った患者たちはネッロの提案していた地下鉄の駅の床細工の仕事を再取り組みし、その提案を持ってネッロを迎えにいいく。もう二転三転する感動に涙があふれる暇もないのである。

そして、その仕事がどんどん進む中、新しい精神病患者が雇われてきて、暖かく迎えるネッロたちの姿で映画は幕を閉じる。そして、この物語は実話を元に語られていることが再度テロップになり、さらに胸が熱くなるのである。

実話であるから、それなりの平凡な作品になっても問題はないのだが、音楽のリズム感とストーリー展開が実に見事にコラボレーションされマッチングしているのが絶妙なのです。映画としてエンターテインメントとしても完成されている。しかも、さりげない台詞の数々、シーンの数々、エピソードの数々も非常に奥が深くしっかりと語られている。

ジージョの自殺やネッロとサラの諍いもそれほどつっこまずにさりげなく通り過ぎるのだが決して軽んじているわけでもない。この絶妙のバランスが見事なのです。
実話ですが映画として完成されている。これが傑作という。いい映画でした。