くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヒマラヤ 運命の山」

ヒマラヤ 運命の山

ドイツの登山家ラインホルト・メセナーとギュンター・メセナーの兄弟がヒマラヤ登頂に臨んだときの悲劇を描いた実話の映画化である。最近見たこの手の作品として「アイガー北壁」があるが、あの作品と雲泥の差のある作品でした。

映像センスが全くないのである。美しい山々の姿をとらえるわけでもなく、といって、ひたすら厳しくそそり立つ山々を描くわけでもない。さらにラインホルトとギュンターの兄弟の心理描写が丁寧に描かれているわけでもないし、彼らの両親の心の動きがとらえられているわけでもない。もう一点いうと、この物語の中心となるヒマラヤ登頂にかかわるキャンプのリーダー、カールのドラマであるかに見えるのだがそれも曖昧で物語を牽引するわけでもない。さらに、音楽の選定にもこれというセンスの良さが見えない。

結局、物語の中心となるメスナー兄弟の悲劇の事件を訴えかけてくるだけの作品として終始してしまうのである。そして、それが興味深かったと思えた人はこの作品に感銘し、感動を覚えたことだろうと思う。

映画が始まると、メスナー兄弟が登山をするシーンが写り、自分の勘に頼り無茶をする兄ラインホルトの描写がなされてタイトルとなる。

場面が変わるとカールが今回のヒマラヤ登山の記録を記者たちに説明するショットに始まり、そこへ松葉杖をついたラインホルトがやってきて、いかにもカールが伝えていることが間違いであるかに訴える。そして、メスナー兄弟の少年時代が時折挿入され、物語は一気に本編へ。

映画の大半は頂上に達したメスナー兄弟が帰り道をさまよいながら下山する姿がメインとなる。登山を描いた映画はほとんどが登頂の苦難を描いたものだが、この映画を見るといかに下山が難しいかわかる。そして、下山に道を失ったメスナー兄弟は次第に疲労し、とうとう弟ギュンターを失ったまま兄一人が下山する結果となるのである。

しかし、この兄弟の心の葛藤が胸に響いてこないのはなぜだろう。全体に映画のリズムが生み出されていないためである。無意味なアップやいかにもセットを使ったようなショットを当然の工夫もなく写す監督の軽はずみな演出。荘厳すぎるヒマラヤの姿が伝わらないのもカメラ演出のまずさであろうか。

いずれにせよ、非常に残念な完成度に終わった作品だった。