くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「世界のどこにでもある、場所」

世界のどこにでもある、場所

大森一樹監督が久しぶりに監督業に戻ってメガホンをとった作品。かつて大ファンだった監督なので期待半分、不安半分で見に行きましたが、この映画、ちょっと好きな作品ですね。
まだまだ大森監督の演出感性は鈍っていないと思います。そして、脚本の組立の才能もまだまだ大丈夫かなと安心しました。

物語は、日常の中でそれぞれに精神的に問題ありとされ入院している病院の患者たちが、ひとときのデイケアで動物園と遊園地が併設された山奥の場所へやってくる。集った患者たちは、息子が殺人を犯しておかしくなった母親、安楽死を実行したものの、依頼された患者の家族に訴えられて悩む医師、生徒への教育に悩んで精神的に追いつめられた先生、母親を傷つけ責任能力なしと判断された青年、などなど、今の世の中にありきたりのようにいる人々が集まってきています。

そして、この作品の優れているところはそんな多用多彩な人物を描きながら、決して混乱させない。画面が変わりそれぞれの人物に順番に物語が当てはまっていくにもかかわらず、この人がどんな人だったかをセリフの一つ一つで的確に繰り返して紹介している。このセリフづくりのうまさがさすがと呼べます。

発端は投資会社を運営していた青年が詐欺で訴えられ警察から逃げた先で偶然に紛れ込んでしまったデイケアの場所で出くわす人々の物語という設定。この導入が実にうまい。最初は学生の自主映画の如しかとちょっとさめた視線で見ていたのですが、いつの間にか引き込まれている自分に気がつく。

そして、物語はそれぞれの人物の妄想のような物語が一つ一つ心温まる結末に向かっていくという、今時忘れられている日本映画の良さを再現していく展開になっている。

ほとんどがそのほんの利と感動させるエピソードで結ばれようとする最後に一人の男がどこからともなく銃で撃たれて死んでいく。まさに「世界のどこにでもある場所」なのである。

それぞれの人物がストップモーションで銃声を聞くエンディングが何ともいえずみごとである。物語の中にさりげなく名作映画の題名などが登場するのも映画青年だった大森監督の個性がにじみ出ていてうれしくなる。

評価がどうなるかというところもありますが、私はこの映画は好きですね。是非、続けて作品を発表してほしいと思います