「テイク・イット・イージー」
吉川晃司のアイドル映画、学生映画のようなノリで展開するたわいない映画ですが、大森一樹監督らしい瑞々しい青春の空気感がみなぎった作品でした。
吉川晃司のステージシーンから映画は幕を開けて、主人公裕司=吉川晃司がコンサートを終えて、どこかしら虚しさを覚えている場面に移る。その気持ちを整理するために、北海道へ、今で言う自分探しに出かけるのが本編。現地で元プロボクサーの若者と出会い、ジャズピアニストの麻弓と出会う。麻弓には様々な顔があるが夢はニューヨークカーネギーホールでの演奏だった。
そんな麻弓に恋をし、夢を叶えさせるべく奔走する裕司は、いつの間にか自分の生き方を見出していく。と言う出来のいい展開ではなくて、麻弓を離したくない地元興行師の男との対決場面へと展開していくというなんとも思いつきで展開するストーリー。
東京へ帰ろうとする裕司のバイクが細工されていて事故を起こし、UFOがやってきて助け、ニューヨークに渡った裕司はいつの間にか吉川晃司に戻っていてエンディング。
まさに、学生映画のノリで話が展開し前に進んでいくが、そこにありきたりの商業映画の完成度は見受けられず、あくまで素人っぽい中に、映画作りの面白さを見せつけて来る魅力に満ち溢れている。決して傑作ではないが、個性がぎっしり詰まった一本でした。
「オレンジロード急行」
いやあ楽しい映画です。映画を作ることが楽しくて仕方なくて、そんな映画の面白さを見せたくて見せたくて作り上げた作品という感じが滲み出てます。決して一級品ではないのですが、そんな楽しさが凝縮された、良い映画でした。大森一樹監督商業映画デビュー作。
老婦人が車を待っていると、一台のクラシックカーがやってきて、老婦人が交差点で具合悪そうになり、運転手が降りると、一人の老人がまんまと車を盗んで走り去る。そして、待ち合わせ場所で老婦人を乗せて映画は始まる。嵐寛寿郎と岡田嘉子である。ここにオレンジロード急行と言うロゴをトラックに描いた海賊放送をする車が走っている。警察との追っかけっこを楽しむこの放送局は、リーダーが突然カリフォルニアの研究所に行ってしまい、海賊放送局は解散を決意する。そんな時、たまたま老人による車の窃盗事件を傍受した彼らは、最後に老人夫婦の行方を追跡することにする。
一方、老人二人がたまたま盗んだ車に二歳の子供が乗っていて話がこんがらがりはじめる。警察も翻弄されて、老人を追いかけ始めるが、老人二人はオレンロード急行の車を乗っ取ってしまう。目的地は和歌山。かつての思い出のみかんの木をもう一度見たい老人と彼に寄り添う老婦人、さらに乗っ取られた海賊放送のメンバーのドタバタ劇が、懐かしい歌謡曲を織り込みながら、その場その場のノリのような展開を交えながら明るくも微笑ましく描かれていきます。
とにかく、犯罪ストーリーなのに湿っぽさも暗さも全くなく、とにかく明るくて楽しい。やがて目的地についた老人たちは子供を海賊放送のメンバーに託して目的のみかんの木を確認して、海岸で感慨に耽る。海賊放送のメンバーは警察に子供を返して、和歌山の仲間が用意した漁船で沖合に逃げる。刑事たちも微笑ましいエンディングを迎えて映画は終わる。
面倒なメッセージなどもなく、ただ、映画を作る面白さを画面から訴えかけて来るような楽しい作品。やっぱり大森一樹は私らにとってのヒーローです。
「女優時代」
大森一樹監督がテレビ作品として作った一本で、乙羽信子の半生を綴った原作を元にした作品です。素直に、乙羽信子の半生を胸に感じて熱い思いに浸ることができました。あくまで、テレビ作品なので、映画のような個性的な映像を駆使すると言うものはないけれど面白かった。
主演の斉藤由貴が乙羽信子と待ち合わせて、舞台を見にきた場面から、ジャンプして、若き日の乙羽信子=斉藤由貴の姿へ移る。宝塚歌劇団へ入るべく勉強し、やがて合格して舞台に立ち始める。戦争を潜り抜け、時代が変わる中、大映にスカウトされて宝塚を退団映画の道に進む。やがて、「愛妻物語」でのちの夫新藤兼人、映画では近藤になっていますが、と知り合い、やがて独立プロに移り、新藤兼人の作品に出演していく。そして、近藤にプロポーズされて映画は終わる。
物語を淡々と綴るたわいのない作品ですが、映画ファンの目で見れば本当に面白い。もしかしたらテレビ放映の時に見ていたかもしれませんが、映画館で集中してみるとまた見えて来るものがあります。良かった。