くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「荒野の用心棒」「さすらいの女神たち」

荒野の用心棒

「荒野の用心棒」
エンニオ・モリコーネのあの口笛が聞こえてくる。真っ赤なバックに馬の疾走するアニメーション、次々とタイトルが流れ口笛とあの名曲がスクリーンからあふれてくると、わくわくする。ご存じマカロニウエスタンの代表作のオープニング。

この作品、今更いうまでもなく黒澤明監督の名作「用心棒」を元にしている。まぁ、イタリア映画の娯楽映画なんて、こうした模倣品のオンパレードでもあるのです。しかし、おもしろい。徹底的に娯楽のエッセンスだけをスクリーンいっぱいに描ききったセルジオ・レオーネのこだわりに拍手したい一本である。


アニメーションのタイトルが終わると、荒野のはずれに一人のガンマンがやってくる。そして村はずれの井戸で水をくんでのみ始めると少し先で子供が一軒の小屋に入っていく。胡散臭い男たちに追い返されるショット。それらを冷淡に見つめる主人公ジョークリント・イーストウッド)の視線。ヒーローものの典型的なシーンで幕を開ける。このあたりセルジオ・レオーネの演出が見事である。

もちろん、木枯らしの中寂れた宿場町にやってくる三船敏郎をイメージしたのはまるわかりながら、それでもわくわくするのだから、この作品はこれはこれでいいのだと思えてしまう。

後の物語やそれぞれのエピソード、展開まで「用心棒」とうり二つだから語るまでもないが、これがイタリアンB級映画の代表作であるだけの出来映えであることは、この後に量産されてくるマカロニウエスタンの作品を見れば一目瞭然。ダントツにセルジオ・レオーネの力量がずば抜けているのに気がつく。

クライマックス、足下からとらえるカメラアングルなどまで黒澤明を意識しているのだが、それでもこのマカロニウエスタンにはこの作品ならではのリズムが存在するのだ。よけいなストーリー展開の矛盾はそっちのけで、次のプロット次の展開へ強引に持っていく。それでも決して混乱しない。とにかく楽しんでくださいといわんばかりである。悪くいえば名場面のダイジェストを並べただけのような荒っぽい編集もみられるが、それも許されるおもしろさ。これこそエンターテインメントなのだ。

ライフルの早撃ちラモンを倒した後、馬に乗って去っていくジョーをクレーンカメラがぐーんと引いてTHE ENDとタイトルが迫ってくる。もう拍手もの。これがエンターテインメント、これが映画なのです。

「さすらいの女神たち」
カンヌ映画祭監督賞受賞の話題作である。監督は俳優でもあるマチュー・アマルリック
ドキュメンタリータッチのように淡々と主人公たちを追いかけていく映像、カメラワークはどこかさめたイメージをスクリーンに生み出していきます。

映画が始まると楽屋。むんむんするようなやや太り気味のダンサーらしき女性がわいわいといいながら化粧をしています。彼女たちはストリッパーですがそれぞれが自分なりパフォーマンスを組み合わせてエロスとエンターテインメントの世界を作り上げていくまさにプロなのです。

画面いっぱいに女性たちのショットが映され、ショーが始まると映画もメインタイトル。一気に陽気で華やかな音楽が画面にあふれ出します。にぎやかなネオンのロゴで次々とタイトルか映し出され物語へとみている私たちを誘ってくれる。いわゆるショービジネスを描いたアメリカ映画によくある手法ですが、タイトルが終わるとどこかヨーロピアンなムードが漂い始める。

この物語の主人公ジョアキム・ザンドはフランスでテレビプロデューサーとして成功していたが、何かのトラブルで追放になりアメリカに渡る。そこでショービジネスの一座「ニューバーレスク」を立ち上げ成功を収める。そして自分を追い出したフランスに凱旋、地方の港町を転々としながらもどの舞台も大盛況を納めていく。しかし彼の最終目的はパリ公演なのだが、冒頭で約束してあったパリ公演が関係者の圧力で中止になったらしい展開がみられる。

様々なつてを頼り何とかパリ公演をと考えるが、かつての同僚たちはジョアキムに恨みしか持っていない。
一方で、地方周りを次々とこなしながら、かつて別れた妻からの連絡で二人の子供と再会したり、関係を持った女性にあったりとジョアキムの過去が語られていきます。

淡々と進む物語に特に大事件など起こらず、ただ、平坦に次の舞台次の舞台と流れながらステージシーンが挿入されて物語が進んでいく。そして、ラスト、空き家なのかよくわかりませんがとある海辺のホテルへたどり着き、今まで通り次の町の公演に備えて準備をするシーンで映画は終わります。

主人公のその後も、このツアーの未来もなにも語られないのですが、鈍なときも陽気に笑い飛ばすふくよかな肉体のダンサーたちの姿にこちらも元気づけられる一方、ふと沈みがちになる主人公ジョアキムもまた彼女たちに勇気づけられ、「パリ公演なんて・・」というせりふさえ飛び出す。

一見、シリアスなストーリーになりそうにも関わらずにぎやかなダンサーたちの屈託のない笑顔が実にこの映画のムードを見事に明るいドラマに浮き上がらせてくれる不思議な映像の作品でした。