いやぁ、おもしろかった。三時間近くあるけどぜんぜん退屈しなかった。まぁ、体調万全にして、梯子せずに身構えてみたというのもあるかもしれないけど、しんどくならずに見終えたというのはおもしろかったということでしょうね。
私は西部劇のファンでもないので知識が限られている。だから、この作品の中にちりばめられた西部劇へのオマージュやパロディを全部キャッチできたとは思えません。それがとにかく残念ですが、私の知る限りだけでも至る所にある名作西部劇、マカロニウエスタンなどへのおふざけは本当にこれでもかというほどに挿入されています。
映画が始まると、なんとバカロフ作曲の本家「続・荒野の用心棒(ジャンゴ)」のテーマが高らかに流れて古き良きマカロニウエスタンへのオマージュからスタート。このスタートから映画ファンのみならず映画少年、マカロニウエスタンファンは拍手してしまう。つまり、この作品で捧げられているのは正当派西部劇の亜流として山のように作られたB級ウエスタンがその根底に流れている。派手な撃ち合い、飛び散る血しぶき、勧善懲悪とは名ばかりの人種差別の徹底。適当に作ったようなストーリー展開でどんどん前に進む豪快さ。どこをとったってスマートさも清純さもない。しかし、ヒーローはとにかくかっこいいし、悪人はとにかく卑劣なのです。
とはいっても、主人公はともかく、登場人物に正当派西部劇へのオマージュも忘れていません。名前をとってもどこかで聞いた西部劇の登場人物や西部劇のスターの名前が登場、思わずにんまりする。
そして、至る所にマカロニウエスタンを彷彿とさせる歌声が流れ、タイトルをもじったようなテロップが横から画面いっぱいに流れてきたり、説明のテロップがぽんぽんと画面を彩る。そして画面は西部劇では何度も見かけた馬をかるカウボーイのシルエット。
物語は実に単純なのも、まさにマカロニウエスタンの世界。キング・シュルツが奴隷としてつれまわされているジャンゴを買い取り、そのジャンゴと一緒に賞金稼ぎをする一方ジャンゴの妻で奴隷として売られたブルームヒルダを捜してその買い手のカルヴィン・キャンディの屋敷に乗り込んでいく。
クライマックスはジャンゴとキャンディの手下たちの派手な撃ち合い、さらにいちどピンチになって奴隷として売り飛ばされる寸前で再び形勢逆転してキャンディの屋敷に舞い戻りブルームヒルダを助けて屋敷はダイナマイトで爆破して派手にエンディング。サングラスをかけて馬に乗り妻と一緒に去っていくラストシーンはまさに古き良きマカロニウエスタンである。
いつものようなタランティーノ的なエグさはややトーンダウンですが、絶妙の感性で配置される見せ場の数々とストーリー展開のおもしろさは最近では一番素晴らしい脚本のできばえではないかと思います。その上、マカロニウエスタンの大御所エンニオ・モリコーネにオリジナル曲を入れていただく上になつかしいマカロニウエスタンの曲も散りばめられている。それに、ダイナマイトをはじめマカロニウエスタンならではのど派手な展開もラストに用意。まったく面白いという一言に尽きる。
そもそもタランティーノの作品に名作とか傑作は登場しない。しかし、天性の映像感性でこれでもかと展開する胸のすく派手なシーンの連続が彼の個性であり、娯楽に徹する彼のポリシーが彼の映画の魅力なのです。自身でも出演し、ジャンゴに撃たれて担いでいたダイナマイトと共に吹っ飛ぶというお遊びもある。いろんな面で十分に楽しめたエンターテインメントだったと思います。いずれにせよ退屈しなかったのだから良しとしましょう。