くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「リアル・スティール」

リアル・スティール

全く、アメリカ映画界はどっかでみたことがあるような話をミキサーでごちゃ混ぜにして、ほんの少し設定を変えてどっかでみたようなお話にするのが実にうまい。だから、外国作品のリメイクも器用にいい映画にしてしまうのだろう。

この「リアル・スティール」、父と子の話でかつ、父親はボクサーだったとなれば誰もが名作「チャンプ」を思い出す。そして、その導入部は非常に似ているのだから、観客はなんとつまらない映画かも?と疑ってしまうのですが、いつの間にかお話に引き込まれ、いつの間にか一緒になって興奮し、ラストシーンでじわっと感動してしまいました。とにかく、全く退屈せずにおもしろい。単純に盛り上がって主人公たちと一緒に興奮し、そして、いつの間にかマックス少年と一緒になって涙を流している。本当にいい映画でした。

さて、ちょっと、分析してみましょうか?まぁこんなことしなくてもとおもいますが、何でおもしろかったか。とにかくストーリー展開の構成が抜群におもしろい。出だしで、出来の悪い父親チャーリー、突然舞い込む一人息子。元妻の死、貧乏に落ち込む。ありきたりの設定から、スクラップ置き場でぼろロボットを拾いだし、場末のつまらない試合で大奮闘、そして一気にロボットチャンピオンゼウスとの最終試合まで物語が進む。2時間あまりの長さがあるにも関わらず、ストーリー展開のスピードが抜群にいい。

途中のこの父親の過去や、今の恋人らしい女の話はほんのわずかにさらりとこなし、もちろん元妻の話などはほとんどない。親権が叔母に移って、子供をいったん返しにいく下りもさりげなく流す。このバランスが抜群にいいのだ。
したがって、間延びする暇も、妙な背景説明もそこそこにクライマックスへ突っ走るから、観客は一気に感動の渦にはまりこんでしまう。といって、雑な脚本でもなく、押さえるところはきっちりと押さえている。

作品全体をみると、本当にスピルバーグファミリーの作品だとわかる。
ロボットの名前はアトム、もちろんアメリカでの「鉄腕アトム」は「アストロボーイ」と呼ばれていたが、今時のアメリカのアニメオタクならオリジナルがアトムだと誰でもわかる。それに、最初に父親が買い込んだロボットは鎧武者の格好をした漢字べたべたのデザインなのだ。これは日本びいきのスピルバーグの趣味だろう。
さらに、出だしで風力発電の風車をバックにトラックが走る。画面はかなり殺風景な彩りであるが、後半、ロボットの試合にいくときに同じ風景がバックの空が色鮮やかな雲になり、風車もくっきりと浮かび上がって絵画的なシーンになっている。それにロボットチャンピオンゼウスが活躍するドーム。初めて登場するシーンでドームの屋根から光が空に向けて漏れていてうっとりするほどにファンタジックである。さらにマックスがスクラップ置き場でガケしたに滑り落ちてしまうところを延びたロボットの手が彼を止める。あまりにも寓話チックな導入部。これこそスピルバーグ色なのだ。そして、ゼウスをプログラムしたタグ・マシドという東洋人、どう見てもこんな名前創造できない「たくましい」のごろあわせだろう。(う〜〜ん考えすぎかな)

さて、この映画にこのほかに謎がちりばめられている。マックスとアトムが夜の町をランニング。立ち止まったところでマックスがアトムに抱き上げられるが、そこで「言葉がわかるの?」と問いかける。「秘密にするね」と走り出すが、どうやらアトムは本当に言葉がわかるようだ。
さらに、クライマックス、控え室で一人になったアトムが鏡に映った自分の姿をじっと見つめる。これも意味深である。そして、試合が終わって、父親がマックスに近寄る、何かいおうとする父に「大丈夫秘密は守るよ」とマックスが答えるが、そんな秘密どこにもでてきていない。

このアトムというロボットがまるで死んだ母親の心を受け継いだかのような想像をかき立てるシーンだが、物語の中ではあまりにその材料が少ないし、スクラップの中から掘り出された設定なのだから無理がある。となれば東洋的な輪廻転生。そう考えるとまさにここにもスピルバーグ色がみえる。

もちろん、監督はショーン・レビィという「ナイト・ミュージアム」を監督した人なので、その演出スタイルや映像表現は彼のものだと思いますが、やはりスピルバーグファミリーとして修行してきたとすればスピルバーグの影響が全くないとはいえないと重う。

と、いろいろかき立てましたが、想像していたよりも期待以上にストレートなストーリーで素直に楽しんで思い切り感動できるいい映画だったと思います。
そうそう、ゼウスのオーナーの女性でベイリーを演じたエヴァンジェリン・リリーという女優さんが目の覚めるほどの美しいのがもうひとつ印象的でした。「LOST」に出ていた人ですね。