くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「サルトルとボーヴォアール哲学と愛」「スウィッチ」

サルトルとボーヴォアール

サルトルボーヴォワール 哲学と愛」
映画が始まったとたん、そのカメラワークのリズムの流麗さに引き寄せられる。そして背後に流れるジャズ調の軽快なテンポにどんどん物語の中に引き込まれ陶酔していくのだ。ただ、内容が内容で登場人物が哲学者故に難しい言葉もたくさんでてくるし、フランス語と英語が入り乱れるという複雑さもなきにしもあらずなので、入り込むまでがちょっと厳しいものの、そのしんどさもそう長くなく、映像としてのおもしろさにいつの間にか、主人公ボーヴォワールサルトルの生き方にのめり込んでいる。

巨大なソルボンヌ大学の図書館のシーンから映画が幕を開ける。まるでキノコのようなランプがずらりと並んだ壮大な閲覧室、些細な喧嘩のシーンからボーヴォワールが友人と面接に向かうシーンへ続く。そして、すぐにサルトルとの出会いのシーンから一気に二人の物語へ突入、後はそれぞれの考え方から呼び起こされるストーリーへとどんどん進んでいく。

カメラは時にフィックスでとらえたかと思うとすぐに回転してズームインしたり、フルショットから微妙なインアンドアウトを繰り返す細かいテクニックを絶え間なく利用していく。背後に軽いタッチで音楽が突然流れ始めたり、映像が実にリズム感にあふれていることがこの作品の最大の魅力である。さらに、サルトルが幻覚をみるシーンでの地面に這う虫やエビのショットなどシュールな映像も取り入れ、デジタルカメラの技術を最大限に生かした映像は描かれる人物が一昔前の天才たちであるために不思議な違和感で現代的なモダンアートに仕上がっているかのようである。

自由恋愛を実践し、結婚にも人種差別にもこだわらず、それぞれの思想を具体化するべく実践していく二人の姿、一方で、時に俗にまみれるかのごときサルトルの生き方に女である自分をさらに至高のものへと高め、独自の哲学感を生み出しながら、また自分も俗な愛に揺れる姿も描かれる。

しかしボーヴォワールは自分が手にした地位、そして、考え方を貫く。結果、アメリカで知り合った恋人は彼女の元を去り、彼女は再びサルトルに寄り添い、生涯を過ごす。

自立と女の信念を確立したボーヴォワールの物語である。もちろん、サルトルの影が常に物語の中で見え隠れするが、表だって絵があれているのはボーヴォワールが貫いた哲学であろうとおもえる。原題を訳していないが、日本語の題名と作品の物語はちょっと食い違っているように思えました。

いずれにせよ、カメラ演出と音楽センスのうまさが際だった作品であったという印象で、当時のファッショナブルな衣装もさりげなくこだわった映像づくりを楽しめる秀作だったと思います。

「スウィッチ」
かなりよくできた、そしてとにかくおもしろいサスペンスでしたが、複雑に入り乱れた真相はちょっと気を抜くと混乱してしまうほど見事に構築されていて、本格的ミステリーを堪能できる一本でした。

タイトルが終わると主人公ソフィがとあるグラビア会社へ。ところがでてきた編集者の女性はソフィと約束していたデザイナーが急にバカンスをとってしまい、会えないという。仕方なく帰ろうとするソフィにその編集者が食事に誘い、そこで「スウィッチ.com」というサイトで自宅を契約で一時貸して旅行に出かける方法があると提案する。

ソフィは早速パリにすむベネディクトという女性と交換の契約をし、一路パリへ。なんとエッフェル塔を間近に見上げるアパートについた彼女は有頂天に一日を過ごし、疲れて一夜あけると最悪の寝覚め。シャワーを浴びているとそこへ警察が踏み込んできて逮捕される。寝室には首を切られた死体があったということ。

こうして、いわゆる巻き込まれ型という感じの物語がスタート。必死で真実を説明するソフィですが、なぜか彼女は完全にベネディクトという名前の犯人になっている。

ところが歯医者で取り調べの時にふとした隙に彼女を逮捕つれまわしていたフォルジャ警部の拳銃を奪いソフィは逃走。ここから逃走劇と刑事たちの真実を追求する展開が平行して描かれていく。

とにかく、ソフィがフォルジャ警部たちに追いかけられるシーンで手持ちカメラと細長いパリの家々や庭、廊下などを追いかけて行くスピーディな演出がすばらしいし、軽量カメラを身につけたソフィと警部が走るショットの顔をとらえる画面を挿入させたりと、今時の撮影方法は本当に進んだものだとうならされる。

ソフィがカナダの自宅をみてきてもらうために母親に頼むが母親はそこで何者かに殺され、家が放火される。一方、パリでベネディクトの母という家にフォルジャ警部が行くがどうも答えの内容がすっきりしない。

ベネディクトの精神科のカルテからその母親の家を突き止めたソフィもそこを訪ねるが何者かに襲われる。

次第に真相が明らかになる様子がフォルジャ警部の様々な証拠書類の中からじわじわと物語の中心部に見え始め、実はソフィは巻き込まれ型の事件ではなく、当初から復讐目的でねらわれたことが明らかなってくる。そこには人工授精の問題DNAの問題、などが絡みはじめ、人工授精研究所の話もかいま見得てくるクライマックスは一気に複雑さが最高潮になって、かなり神経を使いました。

結局、最初の犠牲者トマとソフィはその精子が同じで、犯人であるベネディクト(セシル)もまた同じ精子であった。しかし、その子供時代の生活はベネディクトは悲惨なもので、自分の出生の秘密を知ったベネディクトが幸福に育ったトマとソフィを殺害するべく仕組んだ事件だったのです。

「スウィッチ.com」もグラビア社の編集者の女性が作り上げたものの、彼女もベネディクトに殺されている。

ソフィはパリに戻ったベネディクトに拉致され、あわや殺される寸前にフォルジャ警部によって救出、ベネディクトは射殺され、ソフィが「私じゃない」とフォルジャ警部にささやき、警部がうなづいてエンディングになる。

複雑に絡ませた計画殺人劇という内容はかなり中身の濃い構成になっているので、その真相が明らかになるクライマックスは本当に、あっというより、頭で整理するのが大変でした。もしかしたら、この感想に書いた真相も間違っているかもしれない。・・・笑

いずれにせよ、一級品のサスペンスミステリーで、そのスピーディな演出といい、巧妙に張り巡らされた登場人物のおもしろさといい、最高に楽しめる見事な映画だったと思います。