くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「歴史は女で作られる」「ブリューゲルの動く絵」

歴史は女で作られる

歴史は女で作られる」(デジタル・リマスター完全復元版)
フランスの巨匠マックス・オフュルスの遺作であり、公開当時の不評から幻の傑作と呼ばれていた一品で、今回デジタルリマスター完全復元版としてよみがえった映画です。

実在の美貌の踊り子ローラ・モンテスの恋の遍歴を華麗な映像美で描いていきます。豪華なセットと華麗な映像だけがうりの薄っぺらな映画かと思っていたのですが、何の、物語の構成のおもしろさ、丁寧な人物描写、シネマスコープの画面を最大限に利用した隅々にちりばめられる豪華な調度品の数々、さらにこれでもかと組み立てられた壮大なセットの壮麗さに目を見張る。

さらにミュンヘンの雪景色の美しいこと。自然のとらえ方も実に美しい。そして、この当時では見事なのがオーバーラップのフィルム処理の美しさである。特に冒頭のサーカスのシーンからフランツ・リストの真っ赤な馬車のシーンへ移り変わるときのきれいなオーバーラップにうっとりする。今のデジタルならたわいのない処理だが、当時は目を見張る出来栄えといえる。

映画が始まると赤を基調にした画面でサーカスのシーンに始まる。そこへ出てきたのがこのサーカスの最大の見せ場ローラの登場。そして彼女に次々と質問が投げつけられ、男性遍歴についての質問が飛んで、物語は彼女の恋の遍歴へと写っていく。入り乱れる道化師やサーカスの踊り手たちの乱舞、団長の朗々と叫ぶ口上の面白さにどんどん惹かれていく。

最初のシーンがフランツ・リストとの恋旅行である。真っ赤な馬車で走るリストの馬車のそばに別の馬車が。まもなく彼女はリストと別れ一人ミュンヘンへ向かう。途中、学生らしき男にその道旬を聞き、馬車に乗せるシーン。この学生との出会いが終盤で生きてくる。

サーカスの場面に戻ると、続いて彼女の少女時代が語られていく。自由恋愛を謳歌する母親のために、一人おざなりにされ疎んじられる日々をすごすローラの姿。
やがて、大人になったローラのシーンに戻り、ミュンヘンへ。そこでバーバリア王と恋に落ちる。ヌードの絵を描かせたことが気に入られ大きな屋敷を与えられるが、学生たちの暴動に巻き込まれる。

冒頭シーンでであった学生と逃げ、このまま鯉に進むかと思われるが、ローラは身を引き、以前、サーカスの団長に誘われたことをもいだしたローラはサーカスに入る。

物語はサーカスの出し物のいよいよクライマックス。ローラの芸の最大の見世物、天井からの跳躍。心臓が弱っているという医師の言葉も聴かずローラは身を躍らせる。無事着地したローラの周りには彼女の手にキスをしようと観客たちが群がる。カメラはそんな彼女を捕らえながらゆっくりと引いていって幕が下りてエンディングである。

まさに、壮麗な絵巻物と呼べるほどのきらびやかな超大作である。しかし、決してそれだけに終わらない映像演出の工夫もいたるところに見られます。人物などにスポットが当たる場面では周辺が暗くマスクされたり、斜に構えたアングルで不安な会話を増幅させたり、調度品の配置の見事さも決して凡人には生み出せない卓越した画面に堪能してしまいます。これこそ映画ですね。

ブリューゲルの動く絵」
19世紀フランドル、支配者が異端者を無惨に迫害する中の農村の姿を嘆いたアートコレクターヨンゲリクが画家ブリューゲルにこの有様を絵画にしてみよと望むところから摩訶不思議な映像が展開する。監督はレフ・マイェフスキである。

日本題名の通り、まさに動く絵画という映画である。極端な遠近法による画面、さらに大胆に見下ろしたり見上げたりする構図の多用など人間の想像力によるアングルが多用され、幻想的ともいえる非現実な世界が展開する。

登場する人物も、にぎやかに飛び回る子供たち、赤ん坊に授乳する女、ラッパを吹きながら踊る男、頭に荷物を載せていく太った女、子牛をつれて外にでる若い夫婦、などなど、どこかで見たような絵画の一場面を思わせるキャラクターがスクリーンの中で動き回る。

物語というほどではないが、中心に描かれているのがキリストの処刑から復活のエピソードである。しかし、スペインの兵隊による異端者への迫害など地理的に合わない舞台となっているので、まさにブリューゲルの絵画の世界と呼ぶべき映像なのだ。

朝露を帯びた蜘蛛の巣のショット、遙か彼方に飛び回るカラスの映像などCGを多用した効果に中性絵画の背景をそのままセットに持ち込んだ画面づくりも独特のシュールな世界を構築していく。

彼方にある異様な丘にそびえる風車小屋の風車が大きな音を立てて止まると、時間が一時停止し人々はその場にたたずむ。そのワンシーンを壮大な絵画としてとらえる主人公ブリューゲルの姿。そして再び風車が動き出すと時間は再度時を刻み始める。

キリストの処刑が終わり、雷とともに復活を思わせる雷鳴がとどろく。人々は踊り、元の生活を移してカメラが引いていくととある美術館の絵画。今見ていた景色がそのまま描かれている。そしてゆっくり美術館の中を移してエンディングとなる。

不思議な映像芸術と呼べる一本でした。ドラマティックなお話はありませんが、絵画が動く不思議な感覚に酔いしれる作品でした。