くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「たそがれ酒場」

たそがれ酒場

「たそがれ酒場」とよばれるいわゆる大衆酒場に集まってくる人々をグランドホテル形式で描いていく群像劇ですが、これがなかなかどうしておもしろかった。古い映画はどこかひいき目にみているなと思えなくもありませんが内田吐夢監督作品でもありやはり一定のレベルの作品に完成されています。

なんといってもキャバレーのような居酒屋でもない食堂でもない当時の独特の酒場の空間をとらえるカメラの演出が実に良いのです。タイトルが終わっての冒頭のシーンで、テーブルに逆さに積み上げられた開店前の店内がゆっくりととらえられ、その中央あたりにある階段をかつて画家でもあった年老い男梅田がゆっくりと上ってくる。カメラが回ると中二階あたりにあるステージで専属歌手丸山が先生である江藤のピアノについて「菩提樹」を歌っている。やがて、出勤してくる女給たちを写しながら次第に喧噪を帯びてくる店内を俯瞰でとらえていく。

舞台となる酒場のそれぞれの配置、空間、奥行きがものの見事に描写されていってそれぞれの物語へと進んでいく。

開店から閉店までの7時間ほどを様々な人々が入れ替わりながらそれぞれのエピソードがつづられていく。まだ戦後10年くらいであるから戦争体験者の部下と上官(加東大介と東野英次郎)の話や運動家のような学生たちの集団、やくざ風の男(丹波哲郎)と恋敵?のような男(宇津井健)と女給のユキのエピソード、などなどがやはりやや暗さの帯びた物語りながら丁寧な人物描写としてつづられる。そして、それぞれに隅で飲んでいる梅田の視線が挿入されて、決して散り散りバラバラにならない配慮が行き届いているのである。

中二階の舞台の上から店をとらえるカメラアングルなど時にダイナミックな構図も利用する内田吐夢らしい迫力あるカットも挿入され、クライマックス、エミー・ローザというストリッパー(津島恵子)が青年に切りつけられるエピソードに丸山が有名な舞台音楽家にスカウトされる終盤のエピソードとからんで締めくくられ、閉店に近づいた冒頭のテーブルに椅子が片づけられた画面の中で梅田が丸山の先生江藤を説き伏せて、丸山を舞台音楽家のもとにいくことを了解させるくだり、さらに恋人といかずに家族をとったユキに寄り添って階段をゆっくりと下りていってエンディングとなる。

ひとときの様々な庶民の物語を小気味良くかつ情感あふれる演出で語っていき、時が過ぎるとすべてが夢のようなひとときになって終わる。退屈しない90分で、それなりのレベルの一本でもあり京都まで出かけてみるだけの値打ちのある映画でした。