くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「宇宙兄弟」

宇宙兄弟

とっても軽いタッチで描いていく好感度抜群の青春ストーリーでした。一昔前の日本映画ならくどくどと語られるような物語を実にそっけなく、あっさりと描いていく。現代的といえばそれまでですが、そのさりげなさがかえって主人公の二人のドラマを純粋に捉えていてとっても気持ち良いのです。さわやかな感動ドラマという感じの佳作だった気がします。

前半部分は、ややコミカルにストーリーに引き込んでくれる。脚本の大森美香らしいエピソードがちりばめられたユーモアあふれる導入部がなかなかこの映画全体の味付けになっていて楽しい。自分誕生日を一生懸命している天然の南波兄弟の母(なんと久々の森下愛子さん)。無言で短冊に書いたメッセージを置く父のとぼけた姿。ムッタのところにもっていったケーキがぽてんとひっくり返るあたりの笑い。弟ヒビトが月へ出発するときに、飼い犬のアポが逃げてそれを追いかけるムッタの脇をなぜかワニが悠然と泳いでいたりと、突っ込みどころが散りばめられていて楽しい。

車のデザインを却下され、落ち込んでいるところへ弟をけなされてかっとして専務に頭突きしてしまい会社を首になるあたりから、弟ヒビトからの国際電話に答えるくだりもいやみがなくて実にさりげない。そして再び宇宙への夢を思い出すムッタのショットで映画は本編へなだれ込んでいく。

監督の森義隆はできのいい弟とできの悪い兄というステロタイプ化した人物描写を避け、ある意味そういうニュアンスを漂わせながらもそれぞれにそれぞれの良さ、個性が存在することをきっちりと描写していくあたりの細かさや些細な場面にも気を配った演出もこの作品を原作を実写化しただけの薄っぺらな映画にさせない配慮が見え隠れして楽しく物語を追うことができます。岡田将生小栗旬もいつもの癖のある演技を抑えたところもこの映画全体のムードが落ち着いてよかったと思う。

中盤に入ってはムッタの宇宙飛行士訓練の場面が中心になり、登場人物が増えてそれぞれのキャラクターを生かしながらややリアリティある展開が続く。導入部のお遊びのようなシーンは完全に排除され、丁寧に本物を描こうとしていく展開がなかなか見せてくれる。それはニッポンのJAXAのシーンだけでなく、NASAでのシーンや月面でのシーンにも可能な限り細心の注意でリアリティを求めようとする演出が行われているのが伝わってくるからでもあります。

そして終盤、月ではヒビトがクレーターに落ちて危険な状態になり、一方でムッタは試験の最終段階に入る。物語はそれぞれの最終的な結果を示すシーンはカットされ、五年後、ヒビトは奇跡的に生還していることがナレーションされ、ムッタは宇宙飛行士となってヒビトと一緒に月面に立つシーンで映画を締めくくる。この無駄な部分をそぎ落としたために作品全体のメッセージがぶれることなくこの兄弟の夢にかける思い、二人の青春ドラマ、を描いたということに集約されたのだと思います。クライマックス、あきらめたヒビトの目の前に巨大な地球がどーんと姿を現してヒビトを照らす。それは地球にいある兄ムッタの励ましのメッセージの映像表現であるが、このシーンは圧巻。この監督は映画は映像だとちゃんとわかっているに違いありません。

見終わって、とにかく爽快な思いで人々がいつまでも持つべき「夢」の大切さを心に刻むことができたように思えます。いい映画でした。できれば子供さんたちにぜひ見せてあげてほしい一本ですね