くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ファミリー・ツリー」「ダーク・シャドウ」「遥かなる男」

ファミリー・ツリー

ファミリー・ツリー
歓声を上げながらパワーボートを操る女性のシーンからいちなりタイトル。

主人公、マット・キングの妻エリザベスがパワーボートの事故で昏睡状態に。先祖からの広大な土地の処分に翻弄しているマットに10歳のスコッティと17歳のアレクサンドラという二人の娘の面倒も被さってくる。

こうして始まるこの作品。登場人物のキャラクターが実に良い。最初は反抗するけれども次第に父マットによりそう姉のアレクサンドラと妹のスコッティ。さらに、一見礼儀知らずで今時のいけ好かない若者として登場するアレクサンドラの彼氏シドもその根本的な考え方が実にまっとうで、妻に浮気されたマットの心情に対し男としての共感を見せる。

一見、娘や彼氏たちよりマットの親戚たちの方がまともで、親身であるかに見える前半部分から、いつのまにか妻の浮気相手を捜す下りで家族が次第に一つになっていく後半部分に流れるにあたり、本当に親身につながっているのは娘のアレクサンドラやスコッティ、シドの方がマットを思いやっているという優しさが見えてくる展開が実に心地よい。

ハワイという風光明媚な美しい景色を背景に、ハワイアンのメロディを中心にしたのどかな演出で語られていく家族の物語として不思議なくらいに暖かいドラマになって胸に響いてくるのです。この感覚が、ぎくしゃくした家族のドラマであるかに見える導入部から家族の絆の物語へとこの脚本のメッセージがスクリーンの中ににじみ出てくる。

妻の浮気相手ブライアンと語り、どこか引っかかりのあった先祖の土地を手放すことを中止し、アレクサンドラとスコッティとマットの三人がソファーに座ってテレビを見ているショットでエンディング。それまでつねに寄り添っていたシドがこの終盤には姿を見せていないという演出も見事。これからこの家族になにが起こるかは未知の物語ですが、非常に強い絆を語りかけてくれるエンディングだった気がします。

ダーク・シャドウ
最近のティム・バートン作品は扱う題材はファンタジーなのに、映像にファンタジー性がない。最後にティム・バートンの作品に酔ったのはいつだったかと忘れてしまうほどになってしまいました。正直、今回の作品もあまり期待していませんでした。もともとテレビシリーズのドラマであるというのもその原因。

というわけで見たこのゴシックホラーのような、それでいてティム・バートンらしいおふざけのある映画、予想通りの出来映えでした。

200年間、呪いによってヴァンパイアに変えられ埋められていた主人公バーナバス・コリンズが偶然から掘り起こされ目覚める。しかも1972年という中途半端な今となっては過去。この設定が非常にどっちつかずなのです。1972年という時代背景をおもしろく利用したわけでもないし、といって、かつて繁栄したコリンズ家の再興をはかるべく、宿敵の魔女アンジェリークと戦うというバトルなおもしろさにポイントがあるわけでもない。この展開がどっちつかずになって、最後まで引きずってしまうのが本当に残念な作品でした。

しかも、せっかくの時を隔てたラブストーリーであるジョセッテとバーナバスとの異世界の恋も十分に描き切れていない。本来、この部分がティム・バートンがもっとも得意とする部分なのですが、実にあっさりとしていて、ジョセッテとうり二つのヴィクトリアとの恋も描き切れていない。

コリンズ家が新大陸にわたり繁栄し、富を築いたものの召使いで魔女でもあったアンジェリークと恋に落ちる。しかし、それは一時の迷いでバーナバスはジョセッテと大恋愛に。それを妬んだアンジェリークによってジョセッテは殺されバーナバスはヴァンパイアとなって埋められてしまう。

そして1972年と時が下るのですが、登場するクロエ・グレース・モレッツ扮するいけ好かない娘キャロリンにせよ、そこへ家庭教師にくるヴィクトリアにせよ、何か謎があるようですが、その辺が薄っぺらな描写でとどまっている。常連のヘレナ・ボナム・カーター扮するジュリア博士の個性も今一つで、主人公を取り囲む登場人物に魅力がない為に物語が通り一遍で流れてしまうのです。

よみがえったバーナバスが没落寸前のコリンズ家を次々と立て直していきますが、それも今一つリアリティとおもしろさがないし、クライマックスでバーナバスとアンジェリークとの対決シーンでキャロリンがいきなり狼女に変身する展開もそれほどどきりとしない。結局、デヴィッドの母親の強い幽霊によってあっさりアンジェリークが倒され、ジョセッテがかつて飛び降りたやもめ岬でヴィクトリアが飛び降り、それを飛びついてバーナバスが彼女をヴァンパイアにしてめでたしめでたし。殺したはずのジュリアが水中で目覚めるというエピローグで締めくくられる。

すべてが予想がつく展開と、あれもこれもと描こうとした欲張った脚本が結局、まとまりのない映画に完成してしまったという感じです。でも、好きなジャンルの物語なので少々つまらなくても損をした気はないのがせめてもの救いでしょうか。

「遙かなる男」
日本映画黄金時代の二本立ての一本という感じのとにかく痛快な娯楽映画でした。元ネタは「シェーン」。和製西部劇の様相で山奥の牧場を舞台に、そこへやってきた養蜂家とその車に便乗してきた池部良扮する主人公が繰り広げる物語。

牧場主の娘との恋物語、牧童との諍い、追ってきたやくざとの格闘などなど、娯楽の常道がてんこ盛りの作品。あれもこれもと詰め込んだ結果、クライマックスは台風を呼び込んで、さらに牧場主の息子が破傷風になって一刻を争う展開へとなだれ込む。

この手の映画の当然のごとくなにもかもがうまく収まってハッピーエンドになるのですが、それがわかっていても決して退屈しないストーリー展開を単純に楽しむことができました。

昨日から谷口千吉監督の映画を見ていますが、女性の描き方と男性の描き方が非常に分かりやすい描写を行っています。もちろん昨日見た作品の黒澤明脚本の二本については典型的な男の姿になっていますが、対照的に女性が非常になよっとして、悪くいうと女々しく描かれている。この両極端が物語を非常に分かりやすくしているような気がします。もちろん、気丈な女性もでてくることはでてきますが、弱々しいタイプの女性がストーリーの本筋を牽引するように配置されている。

まぁ、この手の娯楽映画にどうこうと分析する必要はありませんので、もっと肩の力を抜いて楽しめばいいかな思います。とにかく、映画館でしか会えないスターを見ながら当時の映画ファンたちは劇場でひとときを楽しんでこられたのでしょうね。本当に楽しい一本でした。