くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ジャコ萬と鉄」「銀嶺の果て」「33号車應答なし」

ジャコ萬と鉄

「ジャコ萬と鉄」
谷口千吉黒澤明が脚本を書き、谷口千吉が監督をした傑作で、のちに高倉健主演で深作欣二がリメイクをしているほどの作品です。

全編、これこそ黒澤明というにおいがプンプンする男くさいドラマでした。
北海道のニシンの猟場を預かる九兵衛のシマを舞台に、九兵衛にかつて苦湯を飲まされ、その復讐のためにやってくるジャコ萬と死んだと思われていた息子の鉄が帰ってくるところから物語が始まる。

ジャコ萬をひたむきに追いかける女、鉄が土曜に夜通しで町にでてじっとプラトニックな愛を向ける教会のピアノを弾く女、など女の描き方は偏ったものがあるものの、黒澤明らしいロマンティシズムが漂う作品のムードと、ニシン漁をクライマックスにした男臭いドラマのぶつかり合いがまさに映画の醍醐味を生み出してくれます。

前半、男同士の人間ドラマがぶつかり合う展開から、ジャコ萬にそりにくくられた女が鉄の前を走り去る。それを犬ぞりで鉄が追いかけるコマ落としによるハイスピードなシーンによる映像のリズム。ドラマ性についてはやや荒っぽい部分もなきにしもあらずであるが、この切り替えしは見事である。

漁が終わり、集まった漁師たちが賃金をもらって帰っていく。ジャコ萬は追いかけてきた女と旅立ち、鉄は再び流浪の旅にでる。村を去る前にもう一度教会の女性をじっと見つめ、彼方に去っていくシーンでエンドタイトル。これが映画の醍醐味、映画のロマンティズムである。

古い映画にも関わらず、映画というものの娯楽性をしっかりと押さえた演出の確かさは、芸術だ何だとこだわる以前に監督が身につけるべき気質なのだろうと改めて納得いてしまいました。

「銀嶺の果て」
黒澤明が脚本を書いた作品で、谷口千吉三船敏郎デビュー作としても有名な一本。
さすがに、これはすばらしかった。こちらも物語の展開やドラマティックな人間の描き方は黒澤明的ではあるが、いきなり本筋から突入するストーリー構成と、中盤の見せ場の連続、終盤の人間ドラマによるまとめ上げ方などとにかく非常に完成度の高い作品でした。

銀行強盗を働いた三人組が雪深い山奥に逃亡したという新聞報道による導入部。山奥の旅館で身を潜める三人を疑惑の目で監視する二人の客の話から、その旅館から逃亡し、雪原でスキーの跡をみつけて山奥の山小屋にたどり着くあたりまでの前半部分のサスペンスフルな展開。
逃亡の途中で一人が雪崩で死に、残る二人がたどり着いた山小屋で次第に人間らしさを思い出していく志村喬扮する野尻の心の動きと対比的な三船敏郎扮する江島のキャラクターが次第に雪山という自然の中で翻弄されていく後半。

なんといっても、山小屋を出て本田に先導させての雪山を逃亡する部分が実にすばらしい。リアリティとスリリングな展開。次第にスペクタクルな物語からドラマティックな物語へ流れていく見事さは秀逸。

本田が負傷し、江島が死んで残された野尻と本田が山を下りる。そして逮捕された野尻が汽車の窓から山を見つめるクローズアップはみごと。これが名作と語られる一本。すばらしかった。

雪山をとらえるロングショットと、人物をとらえるクローズアップが対比されていくクライマックスに、自然とスクリーンに釘付けになっていきます。さすがにフィルムが痛んで暗くなっていますが、これは本当にいい映画でした。

「33号車應答なし」
題名を聞いただけでわくわくする映画ですよね。

この映画は掛け値なしにおもしろかった。娯楽映画というのはこうやって作るものだといわんばかりである。

主人公村上巡査が新婚であるにも関わらず妻と喧嘩をして出勤するところから物語は始まる。相棒でベテランの原田巡査とクリスマスイブの夜に巡回に回る物語が前半。そこで、スピード出しすぎのタクシーとであったり、警視庁でいつも浮浪少年を引き取って世話をしているというおもちゃ工場の男と出会ったりと、後半の伏線が様々なシーンにちりばめられている。

前半部分の淡々とした巡回シーンに、これはなんともつまらない警察物語かと思わせたところで、前半で登場したタクシーの運転手が殺される事件が発生し、物語は急展開して後半へ。この静から動への切り返しの醍醐味はすばらしい。
たまたまみつけた空き巣未遂の少年を追いかけた原田巡査は、前半で出会ったおもちゃ工場の男の家に。その帰り、そばで殺されたタクシー運転手の車を見つける。ところが背後から殴られ拉致されてしまう。

実はこのおもちゃ屋も浮浪少年を利用して盗みを働かせていたりする悪人で、さらにその息子も非道な男で、原田巡査を縛り、村上巡査をだまして同様に拉致し、香港へ逃げるべく原田たちのパトカー(これが33号)で逃亡を図る。原田がパトカーの後部席に縛られ、村上が運転していく。犯人にピストルを突きつけられているために本部からの無線に答えられなくなるという展開が後半部の緊張感を盛り上げる。

そして、前半で是権現場に行く途中で踏み切りで足止めを食うというエピソードで登場する列車によるシーンを後半で再現、車の前に貨物車が走ってきて急ブレーキをふんで車が横転し、港での格闘シーンへと物語はクライマックスへ。緻密に組み立てられたエピソードの数々が終盤で次々に生きてくるあたりはまさに絶品のおもしろさ。

前半部分がほんのわずかに長くてくどいように思えなくもないし、村上の妻が姉にダンスホールへ誘われるシーンが必要かどうかというところだが、後半のおもしろさでそのあたりの欠点は目をつぶるとしても十分です。

犯人を追いつめる村上巡査。そして逮捕。夜が明けて自宅に帰るシーンを繰り返し、愛する妻に迎えられてエンディング。なんのメッセージもない作品ではありますが、娯楽に徹したおもしろさは一級品。これこそ谷口千吉の真骨頂ですね。本当におもしろかった。