くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「戦場のロマンス」「戦艦ポチョムキン」「落葉」

戦場のロマンス

「戦場のロマンス」
日本未公開作品なので詳細がわからない。映画としてはそれほど優れたものとも思えなかったが、不思議な演出が施された作品でした。

浜辺を行軍する兵隊のシーンから映画が始まります。主人公のサーシャはこの隊の大隊長の彼女で戦場についてきているリューバに曳かれている。突撃の前夜一輪の花を持って彼女に別れを言いにいきます。そして終戦

ある日街角でピロシキを売るリューバを見かける。近づいていくが彼女は思い出さない。彼女の傍らには一人の幼い娘がいる。思わずピロシキを買うサーシャ。最期に戦場での別れの日と同じように一輪の花を持ってきてリューバも心を引かれる。まさにチャップリンの「街の灯」である。実際、サーシャが上映する映画の中でチャップリンの映画が映されるから意識したのだろう。

サーシャには愛する妻ヴェーラがいて、本人は映写技師をしながら幸せな日々を過ごしている。サーシャは毎日リューバのところへピロシキを買いに出かける。そんなサーシャに曳かれていくリューバはやがてデートをすることになるが、ヴェーラもそのことに気がつき不思議な三角関係が描かれていく。

夫の愛人をすんなり認め家に招いて楽しく過ごすヴェーラの行動などもこの作品の不思議なところで、背後に雑踏を交えたような効果音楽を挿入したり個性的な映像が展開。

やがて、リューバは地方議会の委員長と結婚することになり、その幸せそうに見える姿を見て身を引くサーシャ。後をリューバが追いかけてくるがこれもかなわず寂しげに別れていくサーシャ。明け方の町で、雨と湯から落ちる氷をけ飛ばして騒いでいると警察に捕まる。ふと胸騒ぎをしたヴェーラが町で馬に乗せられているサーシャを見つけ、声をかけて助ける。カメラはこの二人のショットをとらえてエンドタイトルになる。余情的なエンディングにメロドラマの風情が漂う。

何の変哲もないメロドラマである。にもかかわらず、なぜか間延びしたシーンがなかったことに気がつく。決して傑作と呼べるほどではないのですが不思議な魅力のある映画だった。

戦艦ポチョムキン
今更いうまでもない世界映画史に残る傑作。
非常に分かりやすいストーリー構成と映画的な比喩をふんだんに取り入れたカットの連続、そして今や映画のカットの常識になっているショットの連続、スローモーション、俯瞰、フラッシュバック、クローズアップ、などなどのテクニックの数々がほぼ完璧に近い形で編集されていく映像は息苦しいほどの迫力があります。

エイゼンシュテイン監督はこの作品で自分のモンタージュ理論の技法のすべてを実践したといわれ、砲塔を見上げる空の雲がぐんぐん流れるシーンや有名なオデッサの階段シーンでの恐怖に襲われる人々のクローズアップとぐんぐん迫ってくる兵隊とのカットの繰り返し。階段の上からゆっくりと移動しながら兵隊の異常に長いシルエットをバックにとる移動撮影、そして有名な乳母車の落ちるシーンのカット編集の醍醐味などまさに映画の教科書といえる一品である。

ただ、このオデッサのシーンまでの展開はお世辞にもおもしろいとはいえない。私はこの映画を何度も見ていますがオデッサの直前で必ず眠くなってくる。内容がいわゆる革命に蜂起する勇気有る労働者の物語なのだから重々しくて当然であり、これは仕方のないことだろう。

しかし、オデッサのシーンは怒濤のように集まってくる人々のシーンに続く兵士による銃撃のシーン、さらにオデッサの港を出て海軍の艦隊との息詰まる展開からラストシーンまでは非常にスペクタクルでさえあり見事な大団円と呼ばざるを得ません。

人によれば全編名シーンの連続といいますが、確かにどのショットを見てもほとんど無駄がない上に構図が本当に完璧に近いほど美しい。しかも細かいカットの積み重ねで見せるストーリーテリングの完成度の高さはサイレントであることを忘れさせてくれる。これを名作と呼ばずしてというほど神懸かりになる人がいて当然の傑作であることは十分に認めます。でもやはり何度見ても隙がなさすぎて重い。
  
「落葉」
映画が始まるとどこかの村の人々が昔ながらの方法でワインをつきうるシーンが続く。この導入部が本当に詩情豊かで美しく、このままサイレントのドキュメントかと思うと、一人の若者オタールが朝食を食べながらこれから出かけるところ。彼はニコという青年を誘いワインの醸造工場へつとめるために出かける。ニコは近所に気になる女性マリーナを認めている。

こうしてニコがこのワイン工場に勤めるところから映画が始まるが、これという物語はない。ひたすら工場の生産量の目標のために要領よく立ち回るオタールに比べ、何事もきまじめに対処していくニコの姿が描かれ、一方でその工場に勤めるマリーナとの淡い関係も語られていく。

木曜、日曜、月曜などというテロップが繰り返されそれぞれの日常を描きながら主人公ニコの生活が語られるが、ある日、工場側からまだ熟成されていない樽のワインを生産量目標のために瓶詰めことを強制され、反感を持ちながらも実行する日が近づく。日に日にいらだちを募らせるニコは自分に好意があると思っていたマリーナともうまくいかないようなすれ違いの出来事も起こり、とうとう、瓶詰めの日にゼラチンを混ぜてしまう。

工場の技師たちが工場長のところへ駆け込むと工場長はニコに「よくやった」とほめるのである。

さりげなく体制批判を織り交ぜ、ラストに帝政時代ののぞき顔を写真に撮るショットなども交え、サッカーに戯れるニコのショットで映画が終わる。

淡々とした叙情あふれる甘酸っぱくも美しい画面の中に当時のどこかやり場のない拘束感とそれに対する反感が見え隠れする鋭い一本であり、一見淡いラブストーリーと正義感の強い若者の青春を扱ったかに思えるが、結構奥の深い出来映えになっているのが伺われる。そのために見ていてかなり疲れたことも確か。マリーナとコーヒーを飲みにニコが入るシーンでちょっとシュールにさえ見える演出が施されたり、なかなかテクニカルでオリジナリティのある映像が特長的でもありました。

一人の青年の揺れ動く日常を描きながら背後に国柄を感じさせるこの作品の独特な味わいは一見に値する映画だった気がします