くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヘルタースケルター」

ヘルタースケルター

前作「さくらん」がなかなか私好みのできばえで面白かったし、当代最高の若手女優と思っている沢尻エリカ久々の出演、しかも周りの脇役も原田美枝子、桃井かほり、大友南朋、寺島しのぶなど超一流どころをそろえているのだから、かなりの期待が大きかった。原作を読んだわけではないが、原作を完全に映像として昇華し極彩色のエンターテインメントというキャッチフレーズどおりの怪作を期待していたが、期待が大きすぎたか、なんとも混沌とした作品で手放しで楽しんだといえるできばえではなかった。

物語は全身美容整形され理想に近い女性になったりりこの物語で、その絶頂期から映画は始まる。誰もが彼女に憧れ、女子高生を中心にしたカリスマ的な存在で押しも押されぬりりこ。しかし、整形の後遺症を抑えるため薬漬けになり、さらに新たな後輩の出現で精神は不安定になっていく。スタッフに当り散らし女王のごとく振舞う姿は痛々しくも悲しい。そんな彼女に献身的に、そして崇拝するかのように付き添うマネージャー美智子、さらに体の関係と割り切る恋人の貴男、彼女を道具のように扱う社長の寛子、さらに対極として原田美枝子扮する久子の経営する美容クリニックの不正を暴こうとする検事の麻田などが絡んでくるがそのどれもが物語の一エピソードのように存在感が薄い。さらに、美術セットはわざとではあるかもしれないがかなり下品な色彩と色調で統一されている。そのそれぞれがまとまりも無く混沌とストーリーをつむいでいくために、りりこの生き方の物語が、浮かび上がってこないし、「美」というテーマでぐいぐいおしていこうとする蜷川美香のメッセージが希薄になっている。

沢尻エリカの女優としてのカリスマ性がいまひとつ作品に迫力を生み出してこないし、細かいカットと手持ちカメラの多用による画面の不安定さが何の意味も無く作品の質を下げているように思える。

要するに、蜷川美香の色彩センスが映画としてのリズムを生み出してこないのである。すべてが淡々としたリズムで運んでいく。りりこが美智子の恋人と交わったり、美智子に関係を迫ったりという異常な行動さえも全体のイメージの中で些細な一エピソードとして片付けられてしまうのだ。恋人の貴男の存在感もまたしかり。こういうりりこの異常な世界に切り込んでくる検事の麻田の話が楔のような役割を果たせず、どれもこれも混濁した色彩の氾濫の中でどろどろと渦を巻いたままラストシーンへとなだれ込んでいく。

りりこに強要されて貴男のフィアンセを襲うくだりさえも鬼気迫る必要性が見られない。次第に崩れ狂っていくりりこの物語であるはずが、最初から狂っていてそのまま破滅になだれ込む展開で終わってしまう。

さすがにクライマックス、すべてが公になったりりこが記者会見でカメラマンの前で左目を突き刺すシーンは唯一はっとさせる蜷川美香の美的センスの極みだろう。
しかし、この後のエピローグのバランスも悪く、こずえが打ち上げで連れて行かれたど派手なクラブで美智子が働いているのを見かけ部屋の奥にいってみると眼帯をしたこれまたど派手ないでたちのりりこが振り返ってエンディング。

期待が大きすぎたのでまるでけなしている一方のような感想になってしまったいるけれども、とにかく残念すぎる作品だったのです。この気持ちを伝えたい。