くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ラヴ・ストリームス」

ラヴ・ストリームス

ジョン・カサヴェテスの映画はまず取っつきにくい。商業ベースで作った「グロリア」をのぞいて、その作品の世界に入り込むまでがやや時間がかかる。その上大胆なカットでよけいな説明を省いた映像は時に登場人物の関係さえも意味不明になるから大変。

果たして、この傑作「ラヴ・ストリームス」もそうだった。

ジョン・カサヴェテス演じるロバートが売れっ子の小説家であるという描写はほとんどなく、いきなり女だらけの自宅で放蕩三昧。どうやら離婚した妻との間にアビーという子供がいるようだが、そのあたりの前提となる映像は皆無に近い。一方のジーナ・ローランズ扮するサラはいきなり夫ジャックとの離婚調停で一人娘のデビーを手元に引き取りたいと申し出るシーンから始まる。そのやりとりの中でどうやらサラはどこか精神的に不安定な様子で、夫のジャックをなじるがそれも妄想であるかのように周りにあしらわれる。

そしてさらに物語の中心になるサラとロバートが兄弟であるという描写はほんの一言のせりふで語られるのみで、最初にサラがロバートのところへ飛び込んできて抱き合う下りでは意味不明な展開となっている。

しかし、大胆にシーンを省略しひたすらテーマだけをまっしぐらに突き詰めていくジョン・カサベテスの作品にはそこに最大の魅力があるのかもしれない。

一人息子のアビーをホテルに残して一人ラスベガスで遊んでくる父ロバート。そんな父を嫌ったアビーは狂ったように母の元に返りたいといいだし、母の家の扉に頭をたたきつけてあけてくれと訴える。驚愕的なシーンであり、このロバートに一瞬嫌悪感さえ覚える。「こわれゆく女」のピーター・フォークの描き方に非常によく似ている。こうして観客をぎりぎりまで追い込んで物語の中に引き込んでくるのである。

愛というものの流れに怒濤のように流されながらたった一人のより所としてロバートにはサラがさらにはロバートという存在がある。

クライマックス、大量の動物を仕入れてきてロバートを慰めようとするサラの行動はどう考えても異常であり、その後突然倒れたサラがみるプールでジャックと戯れるシーンなどの夢のショットが痛々しいほどの繊細で研ぎすまされ、限界に近い状態になっている神経を叙述に映し出してくる。

そして嵐の夜最初はサラの行動に戸惑ったもののうちへ入れた動物を必死で家の中に避難させようとする。そこへ突然一人の男がサラを迎えにやってくる。いったいいつ連絡したのか?そのショットも完全にカットされている。この男はボーリング場でサラが知り合った男だろう。いったい、いつこの二人は愛をはぐくんだのか、そのあたりも完全に省略されているがカサヴェテスにとっては必要ないのだろう。

そして、訳も分からないままにサラはロバートの元を去っていき、窓越しのサラの姿を見送るロバートのショットでエンディング。

ある意味「こわれゆく女」と姉妹編のような作品であるが、ぎりぎりの状態でそれぞれの愛の形に流され飲み込まれていくサラとロバートの姿が繊細すぎる感性と大胆な作風で語られる映像はまさに独創的で孤高の一本であると思う。これがジョン・カサヴェテスなのである。