くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「さらば復讐の狼たちよ」「スープ 生まれ変わりの物語」

さらば復讐の狼たちよ

さらば復讐の狼たちよ
「鬼が来た」の監督作品というだけで見に来た。
「鬼が来た」はみていないので今回がこの監督の作品を初めてみたことになったのだが、なんとも、中国にもこんな荒唐無稽、奇想天外な映像を駆使できる才人がいたとは全く驚きであった。

映画が始まってしばらくはその並外れた映像感性についていけず、ただの稚拙な演出のドタバタ劇かと思ってしまい、退屈というよりあきれかえって眠くて仕方なかったが、次第にその映像スタイルにペースが合ってくるとだんだんその画面に酔いしれていき引き込まれてしまった。

物語は1920年代、馬族のアバタのチャンが金で県吏の職を買ったタンの馬電車を襲う所から始まる。線路に斧を突き刺して脱線させ車両が大きく前に回転してひっくり返るショットは全く豪快。

そして、そこに金がないことがわかり、タンが、県吏になってから金を搾取しようとしていることを知ってタンに成り代わり県吏になり、タンを秘書にして赴任先の鵞城へとのりこむ。そこには麻薬や人身売買で私腹をこらすフィクサーのホアンがいる。ホアン自らも影武者をたてているほどの慎重な男でその入れ替わりと本物か偽物かとめくるめくような丁々発止の展開が続き。一見、ドタバタのばかばかしい展開が続くが、それが意図的なものとわかってくると実に不思議な映画だとわかる。やがて、タンが死にホアンを倒すべくチャンらの兄弟が鵞城へ乗り込んでくるクライマックスに至ってくるとその独特の豪快かつふざけたような演出にすっかりくせになってはまってしまいました。

そして、あれよあれよとホアンを窮地に追い込んだチャンはまんまと鵞城を占領、タンや死んだ兄弟の復讐を果たしたチャンはホアンに自決を促し、ホアンは塔の上で自爆して果てる。

チャンの兄弟は馬族から足を洗い馬列車に乗って去っていく。ファーストシーンと同じ繰り返される映像を駆使しそれを見送ったチャンの後ろ姿でエンディングである。

奇妙なダンスや色彩演出を駆使し、巨大な月を画面に映してみたりとシュールな演出も随所にみられるし、時に馬が疾走するシーンなど豪快な移動カメラによるシーンも展開する。決して稚拙な演出ではなくこれがこの監督の個性的なオリジナリティなのだと次第に気がつくのである。

もしかしたら恐ろしい傑作だったかもしれない独創的な一本に出会った気がしました。ちょっと、もう一度見直してみたい気もします。


「スープ 生まれ変わりの物語」
結構評判がいいのと大好きな小西真奈美さん出演というのでみに出かけた一本。とってもハートフルな感動のお話でした。

作品の出来映えはふつうという程度でしょうか。生まれ変わりを扱った物語はそれだけである程度の感動を呼ぶものだと思いますが、この物語、生まれるまでの部分と生まれ変わってからの部分のバランスが少し悪い。それと、生まれ変わってからのドラマが今一つ弱いように思えるのは、それまでの大人の世界の物語のキャストが個性派ぞろいであくが強すぎるのが原因かもしれない。そのためにすっきりとした若手の俳優さんだけになる後半部分が非常に軽く見えてしまう。とはいえ、それぞれが演技力のある人を中心に配役し個性はしっかりとでていたのはよかったかな。

原作はノンフェクションでそれを元に創作した物語ですが、いわゆるよくある物語。

妻と離婚をした一人の父親。一人娘とは例によって行き違いばかり。そんな導入部から一気に落雷で死んでしまった主人公健一とその上司の女性由美があの世の受付のような所で記憶を持ったまま生まれ変わるか、改めて生まれ変わるかを模索しながらのコミカルな物語が前半の中心になる。

題材だけをモチーフにした物語はややまとまりがなく、最初に書いたように前半と後半のバランスがちょっとよくない。なかなかのファンタジックな物語に仕上がっているのにどこかちぐはぐで物足りなく薄っぺらく見えるのは脚本の弱さといえますね。

さんざん悩んだ末に生まれ変わった主人公は16歳の高校生で、そこでかつての石田の生まれ変わりに出会い、由美の生まれ変わりにも出くわす。自分の娘の大人になった姿を見て、彼女の結婚の日、いままで気にしていたことを告げて抱き合ってハッピーエンドへなだれ込んでいく。このあたりは確かに感動的なシーンですが、今となってはあまりにもありきたりで物足りない。

エピローグで由美の生まれ変わりに猛烈にアタックしてエンドタイトル。

これといって秀でたところもない平凡な映画でした。ネットでの評判は非常にいいのですが、正直どの程度の観客の意見か疑問に思ってしまう。テレビドラマに毛が生えた程度の作品に一般の人たちが満足するようになったのはちょっと寂しいような気がしますね。偉そうなことをいうわけではないけれども、それはひとえにテレビドラマもレベルが落ちてきたということかもしれません。

まぁ、それでもこういうストレートなハートフルドラマは素直に物語に感動したらいいのかもしれない。